地球と人と
表紙に戻る

Essay■ 6_106 不確定の破れ 3:検証
Letter■ 添削・根雪
Words ■ たゆまぬ努力が実を結ぶ


(2012.12.06)
  不確定性原理には間違いがあり、小澤の不等式での表現のほうが確かになるということが、理論的に示されました。さらに続いて、実験による検証でも示されました。その実験は少々の「不確かさ」があるため、今後、さらなる「検証」が必要になりそうです。


Essay■ 6_106 不確定の破れ 3:検証

 2003年の「小澤の不等式」の理論では、2つの測定で一方の精度を上げても、他方の誤差が際限なく大きくなることはなく、一定の範囲に留まるということが示されました。この「小澤の不等式」は、理論によって導かれた仮説にすぎません。仮説を検証するためには、実験が必要となります。その実験結果が、今回の報告になります。
  2012年1月15日のNature Physicsという科学雑誌の電子版に、
J. Erhart, S. Sponar, G. Sulyok, G. Badurek, M. Ozawa, and Y. Hasegawa
"Experimental demonstration of a universally valid error-disturbance uncertainty relation in spin measurements"(スピンの測定における普遍的に確実な誤差分布の不確定性関係の実験的検証)
という報告が発表されました。少々難解なタイトルで、中身もよくわかりません。
  スピンとは、素粒子の角運動量の特性のひとつで、磁場の影響を受けます。スピンの測定は、不連続でとびとびの値として観測されます。スピンの異なる方向の成分は、素粒子の位置と運動量に相当します。この2つの方向にも、不確定性原理の関係が生じます。
  エルハートたちは、原子炉から出てくる中性子のスピンの2つの方向を順に、2台の装置で精度よく測定しました。一方の成分の誤差を限りなくゼロに近づけると、不確定性原理の式では他方の成分の誤差は際限なく大きくなり発散するはずです。しかし実際の測定では、1.5ほどの値に収まっていて、無限に大きくはなりませんでした。両者をかけても、不確定性原理より小さな値になります。
  その結果は、不確定性原理で示されている誤差より、小さくできることを示したとなります。従来の不確定性原理は正しくなく、小澤の不等式のほうが正しいことを意味しています。
  小澤の不等式が正しいことが確かめられたら、位置や運動量の関係だけでなく、時間とエネルギーの関係でも不確定性原理が働くので、それも「破れている」可能性がでてきます。
  ただし、この実験が充分に正確かというと、必ずしもそうではなく、まだ「不確定性」が残されているようです。難しい実験は、さまざまな制約条件や誤差がつきまといます。ですから、エルハートたちの実験もひとつの結果、それも誤差の大きいものなので、別の装置、別の仕組みでの測定がなされていくべきでしょう。そして小澤の不等式が正しいかどうかを、再度、検証していく必要があります。
  もし小澤の不等式が正しいことが判明すれば、どんな世界が出現するのでしょうか。精度の不確実性が整理されたので、今まで諦めていた精度の新素材、新技術などのが発明できるかもしれません。いくつかの影響が考えられています。
  ひとつは、重力波の発見です。重力波は一般相対性理論でその存在が予言されているのですが、まだ見つかっていないものです。時空間のゆがみが、光速の波動として伝わる現象です。その歪みは非常に小さいので、検出限界が不確定性原理にかかるとされていました。今までは、根拠が不確かなまま実験が進められてきたのですが、今回の検証によって理論的根拠が確からしくなってきたわけです。重力波の検出が可能になるかもしれません。
  また、量子暗号の分野への影響もありそうです。まだ達成されていない技術なのですが、量子コンピュータのようなものができたとき、そのセキュリティにかかわる問題です。量子による暗号を送信したとき、盗聴されたしましょう。盗聴による測定がされたら、不確定性原理の制約があるため、盗聴の痕跡が検知できると従来はされていました。しかし、今回の検証によって、その限界が変わるかもしれません。もしそうなれば、セキュリティが高いと期待される量子暗号が、成立しなくなるかもしれません。もっと精度を上げる必要があるかもしれません。将来の技術にとって、非常に大きな影響を与えるかもしれません。まだできていない技術なので、今後の展開しだいでは、他の応用も生まれることでしょう。
  今回の成果は、基礎的な研究なので、他の分野の技術として社会還元されていくのは先の話になるでしょう。しかし、このような基礎科学がまったく新しい世界を生み出す可能性も秘めているのです。


Letter■ 添削・根雪 

・添削・
今、私たちの大学は、卒業研究の提出が間近に迫っています。
私のすべての空き時間が、
4年生への添削に費やされています。
「大変だったけれどもやっとできた」という
自分なりの達成感を持ってもらいたいと思っています。
苦労が大きいほど、努力が大きいほど
達成感は大きくなります。
卒業研究は、研究としての客観的な評価も重要かもしれませんが、
教育的な視点では、そのような評価が最優先ではないかもしれません。
私は、個人個人の達成感が一番重要だと思っています。
ですから、最後の最後まで、赤を入れ続けるのです。

・根雪・
北海道は雪模様ですが、
先日、温かい日があって、雨も降りました。
残っていた雪が少しは溶けたのですが、
雪が固まったところが、
スケートリンクのようにつるつるになりました。
非常に歩きづらく、転びそうで怖かったです。
こんな日が繰り返されながら
根雪へと進みます。
今年の初雪は遅かったのですが、
根雪は早そうです。


表紙に戻る