地球と人と
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Essay■ 6_100 生命の起源4:熱い泥沼
Letter■ 誕生場論争・淡々と
Words ■ 北国の春は遅い


(2012.04.12)
  生命が地表でできたという説が、最近出されました。新しい説では、火山地帯で熱水が流れる泥の沼のようなところを想定しています。もちろん似た考えからは以前からありましたが、新しく提唱するために、最新のデータが提示されています。それなりの説得力もあります。さて、この新しい説を信じることができますか。


Essay■ 6_100 生命の起源4:熱い泥沼

 地球内の生命起源説で、陸地での誕生の可能性を指摘する論文が発表されました。もちろん、なにもない陸地では、生命は誕生しません。それなりの条件が必要です。有機物を無機的に合成するのですから、材料と合成のためのエネルギー源が必要です。そして、多様な試行錯誤が必要なので、その条件がありふれた場で多数存在すべきでしょう。さらに重要なのは、そのような条件の方が、他の説より有利だという証拠も提示されなければなりません。
  2012年2月13日にムルキジャニアナ(Mulkidjaniana)たちが発表したもので、「Origin of first cells at terrestrial, anoxic geothermal fields(陸地の無酸素の地熱地帯での最初の細胞の起源)」というタイトルでした。陸地でそのような条件を満たすところは、火山地帯でした。熱い温泉が湧き出し流れ、泥の沼をつくっているような場所です。熱い泥沼を想定したのは、いくつかの化学成分を根拠にしています。
  深海の熱水噴出孔を取り囲んでいる環境は、海水です。しかし、細胞内に蓄えられている液体は、海水とは化学成分が違っています。一般の細胞内の液体には、現在の海水より、はるかに多くのカリウム(海水の10倍)、リン酸塩(1万から1千万倍)、および遷移金属(鉄やマンガン、亜鉛などが数桁倍)を含むのに対し、ナトリウムは海水の1/40ほどしかないという特徴があります。実は、以前からこのような化学成分の違いは、問題とされていました。
  この問題を解決するには、細胞の体液が変化した、細胞が周りの環境から必要な成分を選択的に取り込んだ、原始の海水と現在の海水とは違っていた、などという打開策があります。しかし、そのためには、何らかの進化、仕組み、変化のためのプロセスを提案し、その根拠も示す必要があります。
  一方、素直に、細胞ができた環境と似た液体を体内にもっているはずだとする考えもあります。そのような場を、海以外で探そうというアプローチになります。海水はナトリウムが多く、カリウムが少ないのですが、火山の熱い泥沼ではカリウムが多く、ナトリウムが少ないところもあります。最初の細胞の「孵化場(hatchery)」として、陸地を考えるのであれば、現在とは違う原始大気のもとで考える必要があります。原始大気は、酸素がなく二酸化炭素の多い成分であったこと考えられています。さらに温泉がわいているような場であれば、成分や合成のエネルギーも調達可能です。
  有機物の合成と細胞内の化学的特徴をつくるには、蒸発の激しい浅い泥の池(金属硫化物と多孔質ケイ酸塩鉱物がまじっている状態)であれば、先ほどの化学成分の条件を満たす環境ができそうだとされています。実際に火山の熱い泥沼にみられる濃縮された蒸気に似ていることがわかりました。
  さて、陸地の熱い泥沼ですが、説得力あるデータが出されています。それでも、地表は生命の「孵化場」としては、過酷に思うのは私だけでしょうか。酸素のない大気ではオゾン層ができないので、DNAを鎖ができてもすぎに切ってしまう紫外線も強かったはずです。植生のない大地は、大雨や洪水があれば、地表は簡単に洗われ、せっかくの泥沼も一時的に消えてしまうこともあるでしょう。火山は移ろいやすいものです。火山活動はやがては終わりを告げます。せっかく合成された最初の細胞も、絶滅してしまわないでしょうか。また、できた生命をどのようにして海に運び、どのようにして組成の違う冷たい環境に耐えられるようにするのでしょうか。そんな困難さが、この説にはありそうです。


Letter■ 科学の宿命・新入生 

・誕生場論争・
生命の誕生の場として、
ダーウィン以来、地表は候補になっていました。
そしていろいろな候補地が挙げられました。
しかし、地表は多様な環境がある分、
その環境の周辺は過酷で、維持も難しく、
海まで移動しなければなりません。
そんなハンディをいつも抱えています。
その点、海中や深海底は穏やかな環境が保証されます。
そんなせめぎあいが、生命の誕生場論争には
常につきまとっています。

・淡々と・
4月もあれよあれよという間に過ぎていきます。
新入生で大学は賑やかになりました。
今日からはもう授業が始まります。
半年で15回の講義ですから、
7月一杯まで講義がぎっりしつまり
8月に定期試験です。
夏休みにも集中講義が入ります。
教員も大変ですが、学生も大変です。
まあ、年度当初からグチをいっても仕方がありません。
淡々とことを進めてきましょう。


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