地球と人と
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Essay■ 6_97 生命の起源1:信頼度
Letter■ データ収集・リテラシーと知性
Words ■ 信頼性はどのようにして形成されるのだろうか?


(2012.03.22)
  生命の起源について、何度かこのエッセイでも取り上げています。新しい事実や考えが提示されたことをきっかけに、話題として取り上げきました。時間と共にそのようなデータは集まってきます。しばらくし間が開くと、話題がたまってきました。ここ1年ほどの間に、集めた話題をまとめて紹介しましょう。


Essay■ 6_97 生命の起源1:信頼度

 生命はどこから来たのか。これは、すべての人にとって、そして古くから現代でも非常に興味のある話題であります。最近、いくつかの発見があり、ニュースにもなったことがあります。その中からいくつか紹介していきましょう。
  生命起源の説については、地球内か、地球外か、という大きな考え方に分けられます。
  地球外起源説は、パンスペルミア説(胚種広布説)とも呼ばれ、古くからある説です。地球外のどこかで誕生(地球外でどの程度進化したのかどうは問わない)した生命が、何らかの方法(手段は問わない)によって地球に飛来し、現在の地球生物の共通の祖先となったというものです。地球外といっても、太陽系内か、太陽系外かも重要な問題です。なぜなら、太陽系内なら、現在の技術の延長線で、近い将来に検証可能となります。太陽系外なら傍証は集められたとしても、科学的な検証は困難となります。
  地球内起源説は、地球にあるの何らかの営力によって、化学合成から生命ができたというものです。どこが誕生の場であったのか、どのようなプロセスを経てきたのかということも、議論になります。地球外起源説とも関係しますが、生物の材料が、地球内で合成されたものなのか、それとも地球外で合成され由来したものなのかという議論もあります。
  これらの可能性がいろいろと組み合わさることによって、多様な仮説が登場することになります。科学者がまじめに取り組んで、新発見や成果があると、ニュースになります。ニュースの中には、少々いかがわしいものも混じってくることがあるので、やっかいです。もちろん、科学であれば、好き勝手に仮説を出すことはできません。信頼性が必要になります。
  科学的に重要な発見は、厳重な検査や検証を受けた(査読制度といいます)のち、科学雑誌に掲載されます。その厳重さが、雑誌の信頼度となります。信頼度と権威とは違います。権威を傘にきて、発言することは、科学的ではありません。査読とは、似た分野の利害のない数名の研究者が、論文を事前に読んで、その科学的プロセスや結果や結論に問題ないか、そしてその成果が雑誌に掲載の価値があるかどうかも判断するものです。その審査の度合が雑誌の信頼度となります。
  研究者は成果に応じた信頼度の雑誌に、査読者は雑誌の信頼度に応じて査読判断をします。研究者も査読者も人ですので、雑誌自体が権威の象徴化するので、注意が必要です。実はどんな雑誌にどれくらい論文を書いたのかが、科学者の能力を権威づけています。
  では専門が違う分野の科学者、まして市民は、信頼度をどのように把握すればいいのでしょうか。以前であれば、信頼できるメディアがあったのですが、最近はどうも信頼がなくなってきたので、ニュースソースを直接あたり、そのソースがどのようなところかで判断するしかなさそうです。それは、権威に依存するという自己矛盾が生じることになるのですが、どこかで妥協するしかなさそうです。
  閑話休題。生命起源の話題にもどりましょう。
  1996年8月、NASAの科学者たちが、南極で発見(1984年)された火星由来の隕石(ALH84001)から「生命の化石」を発見したという報告をしました。信頼性の大きい科学雑誌「Science」に発表されたので、大きなニュースになりました。このニュースを私も聞き、すぐに論文を読みました。科学的手続きを踏まえた検証を経ているので、それなりの説得力がありました。そしてなにより雑誌の表紙を飾った写真が印象的でした。芋虫のような化石の写真がありました。もちんサイズはすごく小さですが。今では、どうも化石というには、証拠不十分のようだと考えられています。彼らは火星生命に関しては諦めていないようですが。
  さて、新しいニュースです。2011年3月には、NASAの研究者が、隕石から化石を発見したという論文を発表し、各紙がニュースにしました。NASAの研究者という肩書きだったせいでしょうか、ニュースになり、私もその原著論文をあたりました。報告自体は論文の体をなしていますが、掲載雑誌が怪しげにみえます。本当に多くの人に訴えたいのであれば、信頼性が保証される査読制度のある雑誌に論文を投稿すればいいのと思いました。論文を読む前にもう少し調べたら、この報告に対して、NASAの宇宙生物学研究所長や研究者が、いくつかの難点を上げて、否定的見解を公式に出したようです。まあ、この件は、置いておきましょう。
  2011年8月に、NASAの別の研究者たちが、隕石からDNAに関連する分子を発見したと報告され話題になりました。この雑誌は信頼の高い(権威のある?)雑誌、アメリカ科学アカデミー紀要(PNASと略されています)に掲載されました。その内容は、次回としましょう。


Letter■ データ収集・リテラシーと知性 

・データ収集・
このエッセイを書くためでもあるのですが、
科学、特に自分が興味を持っている分野に関して、
広く情報を収集しています。
それをファイルにしてとっています。
そのファイルをもとにエッセイを書くことにしています。
最新情報に関しては、関連のデータを
収集するという手間をかける必要があります。
それなりの時間も手間をかけなければなりません。
最新情報の収集も研究の一環、勉強だと思って、
手間や時間を惜しむことなくおこないます。
今回のエッセイも今までニュースが報道され、
情報を集めていたのですが、
エッセイする機会がなかったものです。
バラバラになっていたニュースをまとめて
今回、紹介することにしました。

・リテラシーと知性・
生命の起源は、このシリーズでも紹介しますが
エッセイでは何度も話題になっています。
新しい知見があると、ある仮説に天秤が動き
大きく取りざたされます。
特に地球外生命に関わる話題は
ニュースバリューがあり、大きく伝えられます。
人がその方面に興味を持っているためでしょう。
でも、だからこそ科学的検証は
慎重に厳重におこなうべきでしょう。
情報を隠すことなく、
冷静で公平な報道が望まれます。
メディア側の高いリテラシー、高い知性が望まれます。
今の日本は、大丈夫でしょうか。


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