地球と人と
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Essay■ 6_59 三上あるいは三前:諺・慣用句4
Letter■ 馬上・夏の日差し
Words ■ 一番多くの時間を費やしているところでアイディアは生まれる


(2007.06.14)
  新しいアイディアは、思わぬところで浮かぶことがあります。しかし、それは、本当によくあることでしょうか。少なくとも私がアイディアを思いつくのは、デスクに向かっているときとか、野外調査の最中とか、そのことに集中している時に、一番たくさん思いついています。みなさんは、どうでしょうか。


■Essay 6_59 三上あるいは三前:諺・慣用句4 

 ものごとを思いつくのは、どのような場所でしょうか。私がいちばん多く思いつくのは、机に向かって「さーって、新しいことを考えよう」と気持ちを向けたときです。私にとって思い付きが必要な時は、たいてい机に向かっているときだからです。
  では、野外で調査をしているときは、どうでしょうか。野外調査をしているときは、一人で石を観察しながら、石に関する思いを、ひたすらめぐらしています。いろいろな石が、どのようにできて、どのような関係があるのか。それらを調べるためには、どこの露頭で、どのような試料を採取していけばいいのか。どのような分析や調べた方をすればいいのか。などなど、研究テーマに関わるもろもろのことばかり考え続けています。
  もちろん、自然の景観を楽しみ、自然の変化を見る余裕もあります。そんな時は、まさに心身ともに、自然の中に没入しています。野外調査は、日常の研究室の暮らしとはかけ離れた、野外科学ならではの特殊性があるのかもしれませんが、私は心が洗われる気がして、楽しんでいます。
  それともう一つよく思いつくのは、議論している時です。あるテーマで研究会や会議、ゼミなどで議論している時、いろいろな考えや意見を聞いて、自分も発言している時、いろいろなアイディアが思いつきます。
  私が考えごとをする場合、研究室の机の前でも、野外調査の石の前、会議室の人の前でも、心からそのテーマにのめりこんだ状態でいるときのようです。
  中国の北宋に、政治家でもあり、詩人、文学者でもあった欧陽修(おうようしゅう 1007年−1072年)という人がいました。彼は、『帰田録』の中で「余平生所作文章多在三上、乃馬上、枕上、厠上。盖惟此尤可属思尓」という一文を記しています。これは、「私はふだん文章を作るところは、馬上(ばじょう)、枕上(ちんじょう)、厠上(しじょう)の三上でするのが多い。特にものを考えるときは、ほとんどここである」という意味です。
  当時の高官は馬で移動したので、馬上で考えごとをするのが多かったのでしょう。今では乗り物や徒歩でも移動中でしょう。枕上とは、寝ているときですが、寝床の中の寝入りばなのときです。厠上とは、便所で用を足している最中のことです。
  どれも、自分自身に当てはめてみても、そのようなところで考えが浮かんだこともあり、確かに思いあたるところがあります。しかし、どれもなかなか、アイディアをものにできない、あるいは消えてしまう場合が多いように思います。
  三上のような別のことをしているとき、いいアイディアを思いつくというのは、多くの人が経験することでしょう。もちろん、私も経験したことがあります。でも、定常的には、私はそうでありません。多分、多くの人も、三上が多いわけはないと思います。
  私は、研究室のデスクに向かっているときや地質調査をしているとき、ひたすら、そのアイディアを考えています。そして、何とか、アイディアをひねり出していることが大半です。締め切りのあるものは、そのアイディアがいいものであろうと、悪いものであろう、仕上げてしまうわけです。ですから、結果として上手くいく場合も、よくない場合もあります。
  本当はアイディアとは、そのような当たり前の時に生まれることが大部分なのかもしれません。三上のように思わぬところで思いつくというのは、その記憶が強いためかもしれませんね。私の場合は、当たり前ですが、机前(研究室のデスクの前)、石前(野外調査の石の前)、人前(会議室の人の前)の三前が、一番アイディアが浮かぶところです。

Letter 馬上・夏の日差し

・馬上・
馬上は今では、移動中のことですが、
私の日々の通勤は徒歩での移動ですから、
いろいろ考えることができます。
しかし、歩きながら、考えごとをしていても、
それがなかなか覚えていられません。
ICレコーダの使用も考えたのですが、
それを出しているのがもどかしいのです。
現在は、写真を撮ることが
通勤中にすることの一番の仕事となっています。
それにぼんやりと考えていときは、
記録すること、あるいは記憶することすら忘れています。
後で、歩いている時大切なことを思いついたんだけど
それがなんだんったのかがまったく思いだせません。
ほんの数分前のこと
ですから、大半は上に書いたように、
当たり前のところで、私は思いつくのです。

・夏の日差し・
6月になって、北海道は一気に暖かくなりました。
暖かというより、暑くなってきました。
学生もちろんですが、私も、もう半袖になっています。
ほんの1週間ほど前は、朝夕はコートが必要なほどの
涼しさだったのですが、今では、日中は窓を開けっ放しです。
乾燥してすがすがしい風が入りますから、
日影では、なんとか過ごせます。
しかし、太陽の下では、かなりの暑さです。
先日の土曜日は、小学校の運動会で1日外にいました。
もう暑くてたまりませんでした。
私は、少し離れた日影で見ていたのですが、
多くの人は、運動場の炎天下で観覧していました。
さぞかし暑かったろうと思います。
子供たちもぐったりしていました。


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