地球と人と
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Essay■ 6_43 気象と人への影響
Letter■ 道東調査・人が感じること
Words ■ 異常と正常はどこが境界か


(2006.05.04)
 日々の天気は、人に影響を与えます。そんな影響を間違った方向に増幅されると困ったことになります。メディアによる「異常気象」というセンセーショナルなタイトルには、そんな増幅効果が含まれているかもしれません。


■Essay 6_43 気象と人への影響 

 今年の冬は、各地で豪雪がニュースになりました。昨年の冬は、北海道の豪雪がニュースでした。台風の多数の上陸とその被害もありました。このような例年にない気象現象が起こると、異常気象として扱われることがあります。さらに、異常気象と、世界的な話題になっている地球温暖化や地球環境問題と連動させて考えてしまわないでしょうか。科学的根拠があることならいいのですが、どうも感覚的に話題にされていること多いようです。
 そもそも、本当に例年にない異常気象なのでしょうか。
 まず、気象現象は、一定ではなく変動しています。繰り返しの変動もありますし、長期的変動もあるでしょう。その変動のメカニズム、特に長期変動のメカニズムはよく分かっていません。ですから、何をもって異常というのかは、難しいところのはずです。
 また、異常気象とは、めったに起きない気象のことをいうはずです。めったにない気象とは、観測史上例を見ない現象、あるいは観測史上、1、2ほどしかなかったような現象をいうはずです。
 繰り返しているようにみえる気象でも、細かく見る、日々、年々、変動があります。その変動は時に大きなことがあります。めったにないことは、そんなに回数は起きないでしょう。観測史上初めてのことは、それこそ100年に一度しかないような現象でしょう。
 確率として考えれば、確率の非常に小さいものは、めったに起きないし、確率の小さいのものは時々しか起きません。そんな条件を考慮すれば、私たちは、気象のあらゆる状態を観測してきたとはいい難いはずです。気象観測されてきたほんの100年や200年ほどの歴史と比べても、まだまだ大きな変動が起こる可能性があります。
 このようなことは、深く考えなくとも誰でも、わかるはずです。しかし、「ついつい」異常気象だと思ってしまいます。そのような、「ついつい」を本当らしくしてしまうのは、権威あるものからの情報です。特にメディアは、情報に関しては、その権威を象徴ともいうべきものではないでしょうか。
 マスメディアは、「異常気象」のように「感じる」あるいは「思える」ものは、ついついセンセーショナルな見出しや書き方で、読者の注目を集めようとします。
 マスメディアとしての倫理や良識とうい責務と共に、やはり販売部数や視聴率など、企業としての存続、営利も重要な達成目標となります。この公共性(情報伝達)と営利という立場が、衝突しなければ問題はありません。しかし、もし衝突したとき、どちらが優先するでしょうか。公共性が優先している場合ばかりではないようです。
 あるいは、通常の情報収集活動で、他社に負けないために、少なくとも他者が扱う情報は、入手しておく必要があります。どこかがスクープをすれば、それを上回る情報を得て報道しなければ、他社に追いつけません。そんな競争も、切磋琢磨のうちならいいのですが、速報性だけ、センセーションだけを追求して、情報の信憑性、確実さを十分検討せずに、報道されることがないでしょうか。
 権威を持ったものが不確実な情報を流すと、大衆は簡単に意識をコントロールされてしまいます。そんな例はいろいろあります。松本サリン事件(情報源は警察)、モリエモンも寵児扱い(情報源はメディア)、民主党の偽メール事件(情報源は政治家)などなど、最近の話題だけでも実例が色々あります。
 ですから大衆も賢くなければならないのですが、いうのは簡単ですが、なかなか困難です。日常生活をするときは、多くの人(科学者や知識人、政治家でも)は、大衆となります。大衆でいるとき、異常気象の例を出したように、感覚的に判断してしまいがちです。その感覚に合う情報が、しかるべきところから出てくれば、簡単に権威のコントロールを受けてしまいます。
 科学者、政治家、メディア、公官庁は、情報を発信するときは、その届き方にも注意しておく必要があるのかもしれません。そして、間違った伝わり方をしたら、訂正することも発信者としても責任かもしれません。難しいことですが、権威になる可能性のある立場の人は注意が必要ですね。


Letter 道東調査・人が感じること 

・道東調査・
ゴールデンウィークに皆さんはどちらかへお出かけでしょうか。
私は、現在、北海道の東部を調査しています。
今年のゴールデンウィークは5連休となりましたので、
私にとっては4泊5日の野外調査旅行ですが、
家族旅行も兼ねています。
しかし、道東は遠く、行くの1日、帰るのに1日かかります。
ですから、実質の調査期間は3日しかありません。
天候に恵まれなければ、調査ができません。
この時期、北海道は比較的安定してるはずなのですが、
今年はなかなか「異常気象」のようで、安定するかどうかはわかりません。
それに、今年の冬は積雪も多かったので、
残雪もありそうです。
多分河川は増水していて川原の調査は大変かもしれません。
こればかりは、どうしようもありません。
ただ行くのみです。

・人が感じること・
野外調査の時は、直接天候に左右されます。
しかし、デスクワークや室内での授業をしている時でも
私には、自宅から職場までの間を徒歩か自転車かでいきます。
その選択が変わります。
授業への学生の出席率などにも影響を受けます。
そんな影響は、農業や漁業に従事する人と比べれば、
ささやかな影響かもしれません。
一見たいしたことのない影響のようですが、
心理的変動として、多くの人に共通の影響を与えます。
春のこの時期だと、雨だと心もうっとうしく、
晴れだとなんだかうきうきします。
多かれ少なかれ、天候は人に影響を与えます。
そんな気候が、平年と違うと、その変化が多くの人に影響を与えます。
それが、上で述べた「人が感じること」というものに現れるのでしょう。
感覚は大切ですが、それ以上に理性との連動も大切ですね。


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