地球と人と
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Essay■ 6_32 大地の造形、海中ハイウェイ
Letter■ 衛星画像・川の汚れ
Words ■ 川の汚れに身をまかせ


(2003年10月9日)
 コバルトブルーの海の上を延々と続くハイウェイ。そんな道を車で走る爽快さは、車が特別好きでない人もきっと感じるはずです。海と空の境界を切り裂きながら走り抜けているような気がして、気持ちのいいものでした。でも、この海上ハイウェイは、私に多様な大地の世界があることを、気づかせてくれました。


Essay

 私は、アメリカ合衆国の国立公園が好きで、機会があれば訪れることにしてます。1996年4月にフロリダ半島のケープカナベラルにあるNASAのケネディ宇宙センターを見学に行きました。その時、半島の南にあるエバーグレイズ国立公園とビスケーン国立公園を見学に行きました。さらに、足を延ばして、1日、キーウエスト(Keywest)を訪れました。
 フロリダキーズ(Florida Keys)と呼ばれる島並みを縫うように、U.S.ハイウェイ、ルート1が、フロリダ半島から先端のキーウエストまで続いています。島並みの中ほどにマラソンという町があり、そこから先へは、映画やCMで見かける7マイルズブリッジがあります。7マイルズブリッジは、アップダウンがあり、カーブもあるため、海の上の走っているような爽快な気分になります。
 キーウエストは、ルート1の尽きるところでもあります。キーウエストには、アメリカ本土の最南端(Southern Most Point)があります。本当の最南端は軍の基地がありますので、一般人は入れませんし、さらに先にも島々が続いています。
 ここから、約150kmほど南にキューバがあります。ここまでくると、私には聞きなれないスペイン語が多く聞こえてくるようになります。そんな南の果ての異国情緒のあふれるキーウエストを、文豪ヘミングウェイは愛し、8年間、家族と暮らした家が今では博物館となっています。
 フロリダ半島は、湿地帯であります。湿地帯も多様な環境があります。例えば、湿地帯の中に丸く小さな丘がこんもりとあります。そんなところには木が生えています。湿地の植物がぎっしと支配しているなかに、そんな島のような小さな森があります。植物と共存して、湿地に適応できる動物もすんでいます。なかでも、野生のワニはなかなか迫力がありました。
 こんな平坦な湿地帯では、岩石や地層をみることはむつかしいものです。しかし、私は、たまたま道路際で、電柱を立てるための工事現場で穴を見つけました。そこを覗いてみると、貝がらだけからできている岩石がありました。岩石というより固まりかけの礫が集まったようなものでありました。強く触るとくずれそうなもろいものでした。また、フロリダキーズの島では、マングローブの隙間や海岸に、死んでしまったサンゴが石ころとしてたくさん転がっていました。
 フロリダ半島からフロリダキーズまでは、浅瀬で堆積物を運ぶ大きな川もなく、貝殻やサンゴくらいしか硬いものがない地域なので、そのようなものが、岩石のもととなるのでしょう。でも、土砂からできている堆積岩しかみかけない私にとっては、ちょっと不思議な気がしました。
 私は、降雨量の多い温帯の火山地帯である日本列島に住んでいます。このような環境では、火山岩や山を構成する各種の岩石を起源とする土砂が、川によって海に運ばれ、堆積します。堆積物はやがて堆積岩となり、その一部は、大地になります。そんなことが繰り返し起こっているところが日本列島です。ですから、堆積岩というと土砂が固まったものというイメージが、日本ではできてしまいます。これは、日本人の常識、あるいは先入観というべきものです。
 日本での堆積岩の常識は、あまりにも局所的で、小さいものです。地球はもっと広く、多様なのです。フロリダキーズの石ころは、私にそんなことを気づかせてくれました。
 さらにもう一つ、大切なことをフロリダキーズは、私に気づかせてくれました。
 フロリダキーズやキーウエストで使われてているキーとは、フロリダのこの地域でよく使われている言葉で、サンゴ礁のことを意味します。スペイン語のcayoから由来しています。
 フロリダキーズは、北東に位置するビスケーン湾から、南西のキーウエストまで、弧状に、200kmほども続くサンゴ礁の島のつらなりです。サンゴ礁は浅瀬にできます。ですから、フロリダキーズは、もともと深い海ではなく、弧状にのびる浅瀬に形成された島なみなのです。
 衛星画像や海底地形図を見ると、そのようすをみることができます。浅い海底の地形が連続していて、フロリダキーズはフロリダ半島の延長として大地が続いていることがよくわかります。フロリダ半島は、湿地ですが陸地として海上に恒常的に顔を出しています。いっぽう、フロリダキーズでは、陸地に顔を出している部分は点々として少ないですが、海底地形を見ると、大地が続いているのです。
 フロリダ半島もフロリダキーズも一連の地形的高まりがあり、半島では、湿地帯となり、先端では海の要素が強いサンゴ礁の島の連なりとなっています。つまり、海底にも大地のハイウェイがあったのです。
 人のつくった車数台分の幅の狭いハイウェイより、もっと長く太いハイウェイが、フロリダ半島の先にはあったのです。大地は巨大な造形を、人より先につくっていたのです。人の造形は、人のサイズでしかありません。でも、大地の造形は、そのスケールが違っていました。そんな雄大さをフロリダキーズは気づかせてくれました。
 フロリダキーズ、大地と海の境界に位置するところです。その隙間に人間は分け入っています。でもそれは、もしかすると、ささやかものなのかもしれません。でもそんなささやかな進入にも、私に、爽快感を与えてくれたのです。大地の大きさに比べて、人間のスケールの小ささも感じさせてくれました。


Letter 衛星画像・川の汚れ

・衛星画像・
月一度の衛星画像と連携したメールマガジンです。
前回までイギリスの旅が継続していたので、
月初めに発行するつもりの衛星画像のメールマガジンですが、
一週遅れて発行となりました。
申し訳ありませんでした。
精細な衛星画像および私が撮った写真は、
http://www.ersdac.or.jp/Others/geoessay_htm/index_geoessay_j.htm
で見ることができます。
興味ある方はご覧になってください。

・川の汚れ・
Shiさんから、川のにごりや汚れに関してのメールをいただきました。
それに対して私は、つぎのような返事を出しました。

「川にもいろいろあります。
多くの人にとって、いちばん身近な川は都会の川でしょう。
都会の川は、大量の雨が降ると濁るというよりも、
洗浄されていくようです。
都会の川にたまっていたごみが、大量の水によって一気に海に流れ出します。
下流に汚いものは流れます。
しかし、最近の汚れは、分解しないビニールやプラスチック、樹脂などです。
昔の川は、分解するもばかりでしたし、川が生活の基盤でもあったので、
流域に住む人が川を汚すことはなかったはずです。
いつから、川が汚物処理場になったのでしょうか。
悲しいものです。
きれいな川をみると特にそれを感じます。
年に何度かの台風などの大雨によって
都会の川はきれいなります。
でも、その汚物は、海に押し出され、
ごみの一部は、海流にのってきれいな海岸に打ち上げられ、汚します。
これが、現代流の川と人との付き合い方でしょうかね。
森も、植林による森は、
もしかすると、雑木林よりずっと人工の森なのかもしれません。
自然の森とくらべると、雑木林ですら、人工のにおいがします。
でも、雑木林があった頃は、
まだ、人は森や川と仲良くしていたような気がします。
いまは、人里離れたところや、
発展から取り残されたような限られた地域にしか、
そんな川や森と人との、やさしい付き合いは残っていないようです。
これも時流というものでしょうか。
でも、時流とは、寂しい流れですね。」

というものでした。