地球と人と
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6_27 酸素の誕生:地球史上最大の絶滅

Essay :6_27 酸素の誕生:地球史上最大の絶滅
Letter:ASTER画像と連携・現在、旅行中です
Words :空から眺めること、地を這うこと、どちらも地球を知りたいから


(2003年5月1日)
 前回は、鉄鉱石の起源について紹介しました。今回は、鉄鉱石の由来と大きくかかわっていた酸素について紹介しましょう。酸素も、不思議な由来をもっているのです。酸素が大量につくられた証拠は、カナダの極北の地にありました。


Essay

 日ごろ何気なくすっている空気。ご存知のように、空気のなかには、酸素が含まれています。私たちは、空気中の酸素を吸い込み、利用し、酸素から二酸化炭素に変え、吐き出します。これが呼吸と呼ばれているものです。酸素を利用し、炭素を二酸化炭素にすることによってエネルギーとして利用することを、広い意味での呼吸と呼んでいます。広い意味での呼吸は、ほとんど生物がおこなっている作用です。では、生物が吐き出した二酸化炭素は、どこに行き、生物が吸い込む酸素はどこから来るのでしょうか。
 教科書には、酸素は光合成をする生物がつくり、その光合成に二酸化炭素が利用されている、と説明されています。光合成では、二酸化炭素から取り出された炭素が、生物の体をつくる材料となります。
 光合成生物によって酸素がつくられているのなら、光合成生物がいなくなれば酸素がなくなるはずです。時間を遡れば、光合成をする生物が誕生することによって、酸素は生産されはじめ、それ以前は酸素のない世界だったわけです。ですから、光合成生物の誕生、あるいは光合成生物の大量発生の時期が、酸素の生成の時期となるはずです。
 光合成生物は、いったいいつごろ誕生したのでしょうか。その答えは、光合成生物の化石や痕跡を探すことによって見つけ出すことができます。
 約32億年前の地層から光合成をするシアノバクテリアの化石が発見されています。もっと古いものがあったとする説もありますが、今のところ研究者の合意を得ていません。多くの研究者が認めているのは、約32億年前のものです。
 約32億年前に最初の光合成生物が生まれ、約27億年前には、光合成生物が大量発生したと考えられています。なぜなら、約27億年前の地層からは、大量のシアノバクテリアの化石が見つかっているからです。
 その化石は、ストロマトライトとよばれる岩石からみつかっています。ストロマトライトとは、上から見ると直径数10センチメートルの同心円状の形をしており、断面をみると高さ1メートル程度のマッシュルームのような形で、中には数ミリほどの幅の細かい縞模様が見えます。そのストロマトライトは、小さなシアノバクテリアがたくさん集まってつくりあげた構造なのです。ストロマトライトが地層の中に大量に含まれています。
 私は何箇所かでストロマトライトをみていますが、カナダ北西準州のグレート・スレイブ湖の東岸でみたものには圧倒されました。約20億年前の地層で、その中には大量のストロマトライトが含まれています。
 まさに累々という形容詞がふさわしいものです。マッシュルームのような形態のストロマトライトを含む地層が、延々と湖岸に続いてみられるのです。その湖岸には水上飛行機でいったのですが、上空からもその地層が累々と続いているのが見ることができました。
 前回の鉄鉱石は、海水中の酸素が増加することによって、鉄が沈殿したと説明しました。その酸素を生産したのが、ストロマトライトという化石になっているシアノバクテリアでした。大量の鉄鉱石と大量のストロマトライトができた時代は、呼応していたのです。
 地球の大気中に酸素を付け加えはじめたのは、シアノバクテリアでした。では、酸素が付け加えられる前の大気はどんなものだったでしょう。それは、もちろん酸素のない、二酸化炭素と窒素を主とする大気だったはずです。
 酸素のある大気は、酸素のない大気に比べると、生物にとっては大きな差となります。現在の生物は大部分は酸素を無毒化し、有効利用するシステムをもっています。それは細胞の中にあるミトコンドリアという器官のはたらきによっておこなわれています。
 酸素のない時代の生物にとって、酸素のある環境は、生きてはいけない環境だったはずです。酸素が細胞内に入れば、酸化によって体内の成分が分解されてします。つまり、ミトコンドリアもたない生物にとっては、酸素は猛毒として作用しました。
 20数億年前、シアノバクテリアよって、酸素が大量に生産されはじめると、その当時生きていた大部分の生物にとっては、とんでもない地球環境破壊がおこったのです。地球規模の酸素の汚染です。もちろん、汚染の行き着く先は、大絶滅です。多分、当時の生物の大半は絶滅したと思います。実態は定かではありませんが、地球史上最大の絶滅が起こったはずです。
 現在、地球環境問題が取りざたされています。でも、地球は、もっとすごい大激変を経験しているのです。そして、素晴らしいことに、そんな大激変も生きぬいたいくつかの種類が生物がいたのです。さらには、多くの生物の殺した猛毒の酸素を利用して、より効率のよりシステムをつくり上げた生物もいたのです。それは、もちろん、現在の生きている生物の、そして私たちの祖先であったのです。


Letter

・ASTER画像と連携・
宇宙と地球とひとのシリーズです。
月の初めにはこのシリーズがあります。
かれこれ、これも5回目となりました。
ASTERの衛星画像のページは、
http://www.ersdac.or.jp/Others/geoessay_htm/index_geoessay_j.htm
にあります。
エッセイの文章はそのままですが、
衛星画像、地表の風景や岩石の写真がこのページには掲載されています。
よろしければ、月に一度は更新していますから、
覗いてみてください。

・現在、旅行中です・
ゴールデンウイークに、家族ともども、四国を旅行しています。
私は、衛星画像を紹介していますが、
やはり、私は、地を這うように自然に接するのが好きです。
愛媛県松山空港から、高知県の四万十川の河口まで、
6泊7日の旅行をしています。
私は、四万十川、肱川などの河川の調査を、
家族は、もちろん観光をします。
懐かしい友人も訪れるつもりです。
その様子は、近々、紹介します。お楽しみに。