地球と人と
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6_25 3月の誕生石

Essay :6_26 鉄と酸素と文明
Letter:衛星画像との連動・衛星画像の有効利用
Words :父に感謝


(2003年4月3日)
 私たちが日常的に使っている鉄。この鉄は、どこから来たのでしょうか。鉄鉱石からつくられているということは知っていても、その鉄鉱石がどんなところからとれ、鉄鉱石がどんな様子であり、鉄鉱石がどのようにしてできたかは、あまり知られていません。今回は鉄の産地をみていきましょう。そして、鉄鉱石が語る地球の歴史を紹介していきましょう。


Essay

 列車が通りすぎるのに、何分待ったでしょうか。10分以上かかったような気がします。こんな状態だと、多くの人はいらいらするでしょう。ところが、不思議と待たされることへの不快感はありませんでした。列車が通り過ぎるのを、車を止め、ただただ見とれていたのです。
 これは、日本の開かずの踏み切りの話でもありませんし、私が特別に列車が好きでもありません。でも、この光景は一見の価値があると思います。
 この情景は、西オーストラリアのポートヘッドランドという港町から内陸へ向かう途中でのものです。港にへ鉄鉱石を運ぶ列車が通りすぎるのを眺めていたのです。待っている車は、ただ一台。もちろんそれは私がのっている車です。機関車は、たった一両で、数え切れないほど連結された貨車を引いていました。ゆっくりとしたスピードなので、より長い時間がかかって通過するのでしょう。
 鉄鉱石は、内陸のピルバラ地域に分布する約25億年前の地層から露天掘りされています。鉱山の周辺には国立公園があり、鉄鉱石の地層のよく見える渓谷があります。平らな乾燥した平原に深く刻まれた渓谷に降りると、鉄鉱石をよく見ることができます。
 赤っ茶けた、綺麗な縞模様の地層が渓谷の壁面となっています。縞模様は、近づけば数ミリメールほどの細かい縞模様が見え、離れれば大きなスケールの縞模様が見えてきます。このような縞模様があるため、鉄鉱石を含む地層は、縞状鉄鉱層とよばれています。
 縞模様は、鉄の多い部分と少ない部分からつくられています。鉄の多い部分が鉄鉱石となります。鉄鉱石は、鉄の酸化物(磁鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱などの鉱物)を主とする岩石です。鉄の少ない部分は、石英を主とするチャートと呼ばれる岩石からできます。
 私が訪れた西オーストラリアのハマスレーは、見渡す限り縞状鉄鉱層の大地です。そんな地層から、露天掘りで鉄鉱石が掘られています。露天掘りされている鉱山は、宇宙からも見えるほど大規模なものです。鉄鉱石を構内で運ぶトラックも巨大で、タイヤだけでも、背丈を越える大きさです。大規模に掘り出された鉄鉱石が、先ほどの貨物列車で港まで運ばれていくのです。
 世界各地に縞状鉄鉱層がみつかっています。もちろんそこでは鉄鉱石が採掘されています。世界の縞状鉄鉱層も、ハマスレーのように大規模なものが多くあります。大規模な縞状鉄鉱層が形成された年代をみていくと、ほとんどが25億年前ころのもので、19億年前より新しい時代のものはなくなります。
 縞状鉄鉱層の形成年代の一致と、縞状鉄鉱層がある時以降突然なくなるということには、どんな意味があるのでしょうか。大規模な縞状鉄鉱層が世界各地であることから、縞状鉄鉱層は、地球全体におよんだ現象によって形成されたと予想できます。
 その現象とはどんなものでしょうか。縞状鉄鉱層は地層ですから、堆積岩の仲間です。堆積岩は海底でたまったものです。鉄鉱石とは、海底に鉄がたまってできたことになります。鉄は、普通、イオンの状態(Fe2+)では海水に溶けています。なんらかの原因で、より酸化されたイオン(Fe3+)になると、水酸化鉄(Fe(OH)3)となり沈殿します。沈殿した水酸化鉄は、長い時間のうち、脱水作用で酸化鉄へと変わっていきます。
 縞状鉄鉱層の形成とは、海水に溶けていた鉄イオンが、地球規模で酸化されたということを意味します。つまり、海水の大規模な酸化という事件が起こったのです。では、その酸化は、なぜおこったのでしょうか。それは、酸素をつくる生物が、このころから海に大量に生まれたのではないかと考えられています。酸素をつくる生物とは、光合成をする生物のことです。
 縞状鉄鉱層形成のシナリオは次のように考えられています。
 30億年前あるいはもっと以前に生まれた光合成をおこなう生物(シアノバクテリア)が、25億年前ころには大量発生します。酸素のない海では、鉄がイオンとして溶けていました。それが、酸素が供給されることによって、鉄イオンが酸化され、沈殿していきます。光合成生物の活動している季節には酸素が海水中に増え鉄が沈殿し、活動が衰えた季節(あるいは昼夜)には鉄が沈殿せず通常の海底の堆積物(チャート)が沈殿します。このような季節による生物活動の変化が、縞模様をつくっていきます。
 海水中の鉄イオンの大部分が使われてしまうと、酸素と鉄イオンとの濃度がつりあい(平衡になり)ます。海水中の鉄がなくなると、やがて酸素は大気中へと付け加わることとなります。
 大規模な縞状鉄鉱層は、地球の酸素形成という事件の証拠だったのです。生物によって酸素が急激に形成されたおかげで、海で「鉄の晴れ上がり」がおこり、鉄が25億年前の地層に濃集しました。そのおかげて私は鉄を資源として利用できるのです。
 もしこの酸素形成が急激でなければ、鉄は濃集していなかったはずです。濃集してなければ、鉄は集めにくい資源、貴重な資源となっていたはずです。現代文明は鉄に支えらているのですが、鉄が少ししかない貴重な資源となっていれば全く違った文明となっていたかもしれません。あるいは、まだ鉄器時代はきておらず、石器時代や青銅器時代であったかもしれません。


Letter

・衛星画像との連動・
このエッセイは、ASTER衛星画像と連動したものです。
衛星画像および地表の画像を、別のホームページで公開しています。
これは、月1度の頻度で連載、更新しているものです。
興味がある方は、次のURLを覗いてみてください。
すばらしい衛星画像を見ることができます。
http://www.ersdac.or.jp/Others/geoessay_htm/index_geoessay_j.htm

この企画がはじまって、4回目となります。
宇宙から見る地球の姿は、
私たちの目で見るものとは必ずしも同じではありません。
なぜなら、目で見える光は可視光線ですが、
衛星画像では、目で見える波長より広い範囲のものを見ることができます。
ですから、目で見るより多くの情報を読み取ることができます。
今回の衛星画像でも、地表の地層の様子が非常の詳細にあらわれています。
容量の関係で、高精細画質での公開はされていないのですが、
それでも、この画像はすばらしいものです。
地層を精しくみるのなら、地表で目で見るのがいちばんなのですが、
衛星画像の特徴は、広域を同じ精度で、何度も見ることができます。
つまり、広域の情報を把握したり、経年変化をみるには非常に有効です。
そんなことを、私も、学びながらおこなっています。

・衛星画像の有効利用・
この衛星画像を解説するときに、
地表の岩石、今回のエッセイの場合では鉄鉱石でしたが、
鉄鉱石の濃集しているところと、
衛星画像で表現される色との対応関係を述べようとしたところ、
そこまで、厳密に限定できない、不確定なところがある、
という指摘がされ、内容を変更しました。
その指摘に対して、私は、以下のような返事を書きました。

「不確定要素が多いと、発言がどうしても、
可能性ばかりの指摘で、断定できないことが多くなります。
そうなると、他分野の研究者や一般人からは、
結局、わかったの、わからなかったの、
という問が出てきます。
そして、最終的には、
よくわからない、
という答えになります。
さらに、
どうすれば、わかるのか
という質問が来て、
結局、
地表踏査をするしかない
ということになります。
すると、
では、なぜ高いお金をだしてまで宇宙から探査するのか
という事業自体の否定になります。
こんな悪循環を私は、よく聞きますし、そんな議論をしたことあります。
これは、非常に深刻な問題だと思います。
これの解決法として、地震の予知や火山噴火予知、天気予報などの
可能性限定、可能性の定量化の方法論などを
勉強する必要があるのではないかと思います。
あるいは独自の推定手法を導く必要があるのではないでしょうか。
リモートセンシングの人たちは、その必要性を感じてないのですかね。」

というような返事でしたが、
リモートセンシングのプロに対して、失礼な言い方だったかもしれませんが、
日ごろ感じていることでもありました。
でも、衛星からしか見えないこと、
できないことを有効利用することも大切です。
私のエッセイものような有効利用の一環と考えています。