地球と人と
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6_2 ヒトとは


月面に残された人
類の足跡

 (2000年9月21日)
人類を生物の一つの種として、どのように形成されてきたのかをみます。ヒトの歴史です。


 ヒトは、分類学上、霊長目真猿亜目ヒト上科ヒト科に属し、学名はホモ・サピエンス・サピエンス(Homo sapiens sapiens)です。ヒト科には現生種としてヒト1種だけです。絶滅した種も含めて、広義に人類と呼ばれます。

 現在、地球上に生息する人類を、形態学的な違いあるいは遺伝学的特性によっていくつかの人種に分けられています。また、人類を文化の差異によって分け、同じ文化を共有する人々をまとめて民族と呼びます。人種を考える場合には人類の系統的・発生的な面に、また民族を考える場合には生活や地縁的・文化史的な面に着目します。

 かつてヒトの定義として多くの特性があげられましたが、近年の霊長類研究によって、それらの中のいくつかはヒトの定義に耐えうるものではないことが明らかになってきました。ヒトは道具を使用し、道具を作る動物であるといわれましたが、野生チンパンジーが多様な道具を使うという観察がされ、その定義が無効になりました。雑食性もヒトだけの特性ではなかったし、近親婚の回避や、集団間での女性の交換といった項目も人類に固有の特性ではないことが明らかになりました。

 ヒトの人類学的定義としては、直立二足歩行、音声言語の使用などがあげられますが、確定しているわけではありません。直立二足歩行は、霊長目中人類だけに見られる顕著な特性でありますが、その解明は人類学上の難問の一つとされ、まだ定説がありません。

 ヒト科の形態的特徴は、ヒト科すべてにあてはまるわけではありません。現生人類へ向かう進化の最終的産物です。したがって、ヒトの系列を古くさかのぼればさかのぼるほど、これらの特徴は薄れてゆきます。その進化の速度は、特徴によって異なります(いわゆるモザイク進化)。全体としてみると、第三紀鮮新世から現在に至る約400万年の間、地球上に生息した人類には、ほぼ連続的な形態変化が認められます。

 鮮新世と第四紀更新世(洪積世)の古人類は、時代順にアウストラロピテクス群、ピテカントロプス・シナントロプス群、ネアンデルタール群、ホモ・サピエンス群に分けられます。それぞれ猿人、原人、旧人、新人と呼ばれる人類の進化段階を代表するものです。彼らの文化は狩猟採集を基盤とする旧石器文化でした。

 中期更新世の終り(200万年前)から後期更新世の半ば(100万年前)にかけて、新人(ホモ・サピエンス・サピエンス)の出現と人種の分化がありました。脳容積は、猿人から原人へと増大し続け、リス/ウルム間氷期に、その極致に達しました。それ以後、今日まで脳容積は変化していません。

 現代人と変わらない大きな脳をもつ、リス/ウルム間氷期とそれに続くウルム第1亜氷期に存在した人類は、ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスという学名を与えられています。現代人とともにホモ・サピエンスに属しますが、亜種のレベルで区別されています。ホモ・サピエンス・サピエンスとホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスとの二つの亜種は、進化段階からみると、新人と旧人に相当します。新人は、今から約3万年前のウルム第1亜間氷期に出現し、今日に至るまでの全人類を含んでいます。

 これが、ヒトの歴史です。その後、ヒトは、道具を使い、文明を構築し、科学を知り、技術を利用するようになりました。そして、なんといっても不思議なことは、ヒトが自分自身の歴史や、地球、自然について考えるようになったことです。