地球の調べ方
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Essay■ 5_83 D"層:テクトニクス7
Letter■ サバティカル・心の師
Words ■ もう9月、北海道は秋めいてきました。


(2009.09.03)
  今回は、マントルの一番底の話になります。マントルの底には、D"層と呼ばれるものがあります。このD"層は不思議な層で、その実態がよくわなっていなかったのですが、最近ここが、プレートの墓場であることがわかってきました。そして、そこはマントル対流の行き着く先でもありました。


Essay■ 5_83 D"層:テクトニクス7

 メガリスの話を前回しましたが、メガリスとは、海洋プレートが遷移層の底で滞留したものでした。しかし、メガリスの形成には、予想外の物理現象がありました。それは、玄武岩が低温の場合、より高い圧力まで、低密度の鉱物が安定であるこということです。低温の玄武岩では相転移が起こりにくく、沈み込みにブレーキかける働きをします。
  メガリスの中に「浮き」の成分ができます。海洋プレートのカンラン岩は、通常の結晶で相転移が進み、「錘」となります。両者の兼ね合いが、メガリスの浮き沈みを決定します。古くて十分冷めた海洋プレートは、「浮き」が大きく、メガリスが遷移層にとどまります。
  この不思議な相転移は、高温高圧発生装置による鉱物合成実験の結果から、わかってきたことです。この実験結果は、当時の相転移の常識に反するものでした。しかし現在では追試もされ、多くの研究者から認められるものとなりました。この不思議な相転移が、メガリスを生むことになります。
  沈み込んだ海洋プレートは冷たいうちは、「浮き」として働き、メガリスとして、遷移層の下部にとどまります。しかし、周辺のマントルは温かいので、メガリスも温まります。すると、玄武岩の結晶の相転移も進みます。温まった玄武岩は「錘」になります。
  このような浮きと錘と釣り合いが、ある一定上の大きさ、一定以上の期間を経過したメガリスでは、バランスがくずれて、重くなり、下部マントルを落下していきます。地震波では、下部マントルでは大きな相転移はみつかっていません。ですからメガリスは、低温で密度が大きいため、下部マントルの底、つまりマントルの核の境界まで落ちていきます。
  さて、マントルと核の境界には、D"(ディー・ダブルプライム)層と呼ばれる不思議なものが、以前から見つかっていました。D"層は、地震波が高速度になるところとして、特徴づけられていました。地震波が高速度とは、低温の物質があることを意味していました。
  D"層は、不思議な存在でした。50kmから400kmほどの厚さもまちまちで、マントル底部に普遍的に存在するものではなく、ないところ(地震波で確認できない)もありました。また、D"層内部を詳細に見ると、非常に不均質であることがわかりました。D"層は、不思議な存在で、なにものなのかがわかりませんでした。
  ところが現在では、メガリスが落ちてきたもの、つまり海洋プレートから由来してきたものだとわかってきました。落ちてきたメガリスだとすれば、低温だし、部分的にしか存在しないし、厚さもさまざまで、中身も不均質になります。今では、D"層は、海洋プレートの「墓場」として理解されています。
  海嶺で形成された海洋プレートがコールド・プールとして、D"層になります。D"層は、数億年ほどかけて暖められ、やがて別の役割を担います。それは次回としましょう。


■ Letter to Reader サバティカル・心の師 

・サバティカル・
一昨日まで、愛媛県西予市にいってきました。
1泊2日のとんぼ返りの旅行でした。
目的は、来年春からサバティカルで
西予市に1年間滞在することになっています。
サバティカルとは研究のための長期休暇のことで、
わが大学でもこの制度があります。
ただし、再来年から予算の関係でどうなるかは
現在問題となっています。
幸い、私は、1年前に決定してましたので、
予定通りでかけられるようになっています。
そのサバティカルのために、
市長や教育長などの主だった人に挨拶をして、
研究環境を調整するために関係機関との打ち合わせをします。
この町とは、20年ほどの交流があり、
後輩もいるので、なじみのある町です。
そこで1年過ごせるのは幸せなことだと思っています。

・心の師・
玄武岩の相転移の逆転を最初に発見したのは、
岡山大学の伊藤英司さんでした。
現在は退官されていますが、
私もお世話になっていました。
分野が違うので、直接の師弟関係はなかったのですが、
生活や精神の上では大いに世話になり、
現在でも心の師と思っています。


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