地球の調べ方
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Essay ■ 5_47 まだまだ見える望遠鏡
Letter■ アイスキューブ・師走
Words ■ 知恵は尽きることがない


(2005.12.08)
 今回で望遠鏡シリーズが最後となります。最後は電磁波では見えないものを見る望遠鏡の話です。


■ Essay 5_47 まだまだ見える望遠鏡

 素粒子と呼ばれるこの世で最小のものがあります。原子のみならず、この世のありとあらゆるものは素粒子からできています。そんな素粒子のひとつに、ニュートリノというものがあります。
 ニュートリノは、素粒子の中でも小さく、他の素粒子と反応することも少なく、なんでも通り抜けてしまうだけの素粒子です。ですから、実際に存在するかどうか調べるのが、なかなか難しい粒子でした。
 1934年に、旧ソビエトのパーヴェル・チェレンコフは、直接ニュートリノを観測するのではなく、ニュートリノが起こす現象を観測することで、ニュートリノの存在を確認する方法を発見しました。
 それは、大量の水の中をニュートリノが通り抜けると、電子と衝突して電子がはじき飛ばされることがあります。はじき飛ばれた電子は、水の中を光より速い速度で通り抜けます。そのとき青白い光が発生します。この光を、発見者にちなんで、チェレンコフ放射と呼んでいます。
 光より速いといいましたが、真空中の光はこの世で一番速いのですが、物質の中では、その物質の持つ屈折率で割った値まで光の速度は低下します。真空中で光は秒速約30万kmですが、屈折率1.33の水の中では、光は、秒速約23kmまで下がります。電子が、これより速い速度で動けばチェレンコフ放射が起こります。
 原子炉のようにニュートリノが大量に出るところであれば、チェレンコフ放射は定常的に起こります。しかし、自然界の量の少ないニュートリノを捕らえるのは現実的には困難なこととなります。反応しにくい、少ないニュートリノを捕らえるためには、大量の水を用意しておかなければなりません。
 しかしこの原理を用いれば、ニュートリノを観測できることになります。ニュートリノは、核反応で出てくるのですが、それ以外にも、陽子が崩壊するときに放出されるという考えがありました。これは、ある仮説から導きだされた予測でした。その予測によると、陽子の寿命は10の30乗から32乗年というものでした。そんなに長い時間をかけて観測できませんから、大量の陽子を集めて観測すれば、短い時間で陽子が壊れるのを観測できます。
 そんな目的で1983年に、岐阜県神岡鉱山跡地の地下1000mに、カミオカンデという3000トンの超純水に入れた装置が完成しました。現在は50000トンという大量の超純水を蓄えたスーパーカミオカンデが1996年に動き出しました。
 カミオカンデは、陽子の崩壊を観測することなく、宇宙からのニュートリノを検出しました。宇宙からのニュートリノを観測することによって、太陽の核融合の様子が探られました。それを指導的に行ったのが、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊でした。
 そして、世界を驚かしたのは、1987年2月23日に現れた超新星爆発によるニュートリノ観測でした。南半球だけで見えた超新星爆発でした。しかし、ニュートリノは、地球の中を通り抜けてカミオカンデで観測されたのです。つまり、カミオカンデのような装置は、地下にありながら、望遠鏡としての役割を果たすことが分かってきたのです。
 カミオカンデは実は、非常に性能のいいニュートリノ望遠鏡だったのです。それ以来、ニュートリノ天文学という新しい学問分野が誕生したのです。1960年代には、宇宙から飛んで来するニュートリノを検出する試みがなされてきました。
 人類はいろいろな知恵を使って宇宙を眺めてきました。目で見るものだけでなく、目では見えないものでも観測装置を使えば、見たのと同じことになります。これからもそんな知恵がいろいろ使われて、さまざまな宇宙を見る目を生み出すことでしょう。


■ Letter to Reader アイスキューブ・師走

・アイスキューブ・
現在、ニュートリノ望遠鏡は、世界3台あります。
日本のスーパーカミオカンデ。
カナダのサドベーにある、ニュートリノ天文台。
南極大陸の氷の下のAMANDAと
それを拡大した2009年完成予定のアイスキューブ。
アイスキューブは壮大な国際共同計画です。
現在AMANDAという装置が稼動しており、
水の代わりに氷をニュートリノ検出装置に使っています。
氷の下1400mから2400mに60個の光センサーをつけ下ろします。
そのような穴を何個も開けてセットした全体が
ニュートリノ望遠鏡を構成します。
南極の氷は大量で、望みさえすれば
いくらでも大きな観測装置にできます。
毎年80個のケーブルを下ろして、6年かけて完成する予定です。
日本でも、千葉大学の吉田滋さんが参加されています。

・師走・
師走というのは、あわただしい月で、
あっという間に過ぎていくような気がします。
気をつけていないと、すぐに今年が終わってしまいます。
今年中にしなければならないこと、やり残していることを
忘れずにやっておきましょう。
そうそう年賀状もそろそろ考えなければなりませんね。
人ごとではなく自分のこととして考えなければなりません。
そんなことをあれこれ考えている時間があれば、
やるべきことをやりましょうか。


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