地球の調べ方
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Essay ■ 5_37 誤差
Letter■ ある質問から・秋に焦りは禁物
Words ■ そこには、こだわりの誤差がある


(2004年8月26日)
 前回、時代を決める方法として絶対年代というものを紹介しました。では、その絶対年代は、どのようにして精度が決まっていくのかを紹介しましょう。


■ Essay 5_37 誤差

 絶対年代を示すときは、誤差も同時に示すようにされています。例えば、1億5000万±2500万年前というように、±(プラスマイナス)をつけて、その確かさが示されます。測られた年代ごとに誤差が示されています。この誤差の数値の範囲に測定値は動きうるということです。測定値は、それだけの年代の幅を持っているということです。年代の数字だけが一人歩きすることがよくあるのですが、注意が必要です。
 実は、その誤差の中にはさまざまな内容が含まれています。
 誤差にも、いろいろな意味があります。同じ試料を同じ条件で繰り返し測って得た値がどの程度ばらつくのか(精密さ、precisionといいます)、同じ試料を別の条件で測ったときにどの程度ばらつくのか(再現性、reproducibility)、得た値が真の値からどの程度かたよっているのか(確度、accuracy)などあります。
 分析をする研究者、あるいは研究室では、これらの精度を示した後、年代測定の値を示すことになっています。ですから、年代測定で公表されている値の誤差とは、すべての誤差の中身がたどれるようになっています。年代測定の誤差とは、上で述べた誤差の総合的なものだといえます。
 その誤差の程度は、研究室の環境や設備、そこの使われている分析装置の性能、測る研究者の腕などによって違います。でも、それ以前に、放射性元素の種類や測る試料の様子などが、年代測定の結果に影響を与えます。
 放射性元素の種類は、古い時代のものを測るときは、ゆっくりの壊れる放射性元素を使います。でも、同じ放射性元素でも、古い試料ほど、その誤差の数値も大きくなります。逆に新しいものは、誤差の数値が小さくなります。
 まあ考えれば当たり前のことです。ある研究室では年代測定に1%の誤差があるとしましょう。例えば、30億年前の事件を1%の誤差で測れたとすると、
30億(3,000,000,000)×0.01=3000万年
という誤差なります。ところが、数万年前の事件なら1%の誤差なら、
30,000×0.01=300年
となります。同じ1%という誤差でも、得られた年代によってその誤差となる年数は違ってきます。
 実際には、年代測定で、0.01とか0.001、つまり1%や0.1%の誤差があれば、多くの場合は実用性があります。遺跡などの調査で5000年前のもの年代測定で50年くらいの精度なら充分実用的だと考えられます。
 元素の種類としては、古い時代の試料には壊れるスピードの遅いものが、新しい試料には壊れるスピードの速いものが使われます。遅いもから順番に、ルビジウム−ストロンチウム、トリウム−鉛、ウラン−鉛、カリウム−アルゴン、炭素−窒素(いわゆる14Cいうもの)などとなります。ここで前に書いた元素は、放射能を出して壊れる元素(親核種といいます)、後に書いた元素は壊れてできる元素(娘核種)です。
 これらを精度よく測りたい場合は、測る試料がある条件を満たさなければなりません。それらの条件がどの程度厳密に守られているかが、やはり誤差を大きく左右します。
 まず、測りたい元素が、目的の岩石にたくさん入っていることです。少ないと測定の精度が悪くなってきます。さらに測りたい事件のあった後、その岩石に、測りたい元素が出入りのない環境に置かれていたことも重要な条件となります。たとえば、岩石ができた年代が知りたければ、岩石ができた後に、変成作用を受けたり、地表で風化を受けたものは、正確な年代が測定できなくなります。
 そして、上で述べたような元素を精度よく測る技術、つまり誤差を小さくする技術も必要です。その技術には、試料を取り扱う研究者の腕や、実験室の環境もあります。研究者の腕が悪かったり乱暴だったりすると誤差も大きくなります。また、実験室が汚いと、測りたい試料以外のところから、余分な成分が混入すること(汚染といいます)があります。
 隕石や月の岩石、岩石の中の一粒の鉱物などは、非常に少量しか分析に利用できません。このような少ない試料を測るときは、誤差をいかに小さくするかが問題となります。それこそ研究者の腕の見せ所です。
 絶対年代として、年代値だけが問題になるのではなく、測定値にどの程度の幅があるかということも重要です。特に誰も調べたことのない時代の地層や岩石では、誤差に注意する必要があります。そして、その誤差を頭に入れて年代の数値を考える必要があります。そして、示された誤差には、研究者の熱い思いが込められているのです。


■ Letter to Reader ある質問から・秋に焦りは禁物

・ある質問から・
このエッセイは、Namさんから受けた質問に答えています。
最初、メールで返事を書き出したのですが、
長くなったので、エッセイにしました。
まだ、質問には完全に答えていません。
「どの程度の誤差が出るのでしょうか」という
質問に答えたものです。
半分だけ答えたものです。
後半分の
「どこにでもある石や砂でも
その年代を正確に測定できるのでしょうか。
もし放射性元素が見つからない場合は、
この測定方法は役に立たないのでしょうか。」
という質問には次回に答えることにしましょう。

・秋に焦りは禁物・
北海道はすっかり涼しくなってきました。
あちこちに秋の気配が漂ってきています。
コスモスがいたるところで咲いています。
まあ、コスモスは夏の間中、咲いていましたが。
でも、ススキの穂がではじめました。
ナナカマドの葉や実も色づきだしました。
赤とんぼが里にも舞い始めました。
季節としてはいい時期なのですが、
私にとっては、外ですべき野外調査が
あまりはかどっていないので、少々焦り気味です。
でも、焦りは禁物です。
一人でこつこつと進めていくことです。
あせらず、でも怠ることなく、
急がず、でも休まず、
あれもこれもではなく、やりたいことだけを、
計画も大切だが、修正も大切。
今と未来と、自分の体調、体力、能力などを考えながら
進んでいきましょう。