地球の調べ方
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Essay ■ 5_26 石は、なぜ硬くなるのか
Letter■ 素朴な疑問・子供から教わる
Words ■ 背負った子供に教えられ


(2003年10月23日)
 ある人から、質問を受けました。深海にたまった微生物の死骸がチャートという硬い岩石になるのですが、それのプロセスがわからないという質問でした。この質問に答えたものから、このエッセイは生まれました。


■ Essay 5_26 石は、なぜ硬くなるのか

 素朴な疑問がよくあります。でも、その素朴な疑問を解き明かすには、さまざなま知識の積み重ねが必要となることもあります。堆積物が、なぜ、硬い石、堆積岩になるかということを考えてみましょう。
 チャートは、プランクトンの死骸が集まり、固まってできたものです。プランクトンの死骸のような一見軽い堆積物には浮力が働いてるため、大きな圧力を受けないのでは、と思ってしまいます。しかし、プランクトンが海底に沈んでくる時点で、まず、海水の浮力に質量が勝っているはずです。
 水の密度1g/cm3に対して、プランクトンの遺骸の原料でもあり、チャートを構成する鉱物でもある石英の密度は、2.6 g/cm3ほどあります。プランクトンの遺骸の原料である石は、実は重いのです。ですから、大量に上に積み重なるっていくと、どんどん圧力は大きくなっていきます。
 チャートのもととなる堆積物は、生物の遺骸(石英)プラス水の密度です。つまり、密度は、1から2.6g/cm3の間ですが、上からの圧力によって、圧縮されることで上に水が抜けていきます。これにより堆積物の密度は、より大きくなっていきます。このようにしてプランクトンの遺骸には圧力がかかり、圧縮されていきます。
 岩石になる時には、圧力だけでなく、温度の効果も加わります。
 冷たい海底では、温度は4℃くらいしかありません。なぜ、こんな冷たい海底で温度が加わるのでしょうか。
 岩石は堆積物は断熱効果を持っています。
 陸地での地表の温度を考えると、けっこう温度変化は激しいものです。しかし、地下では地表の気温変化をあまり受けず、年中一定の温度になっています。これは、岩石が地表の気温変化に対して断熱効果が働らいてるからです。つまり、地下に暖かいものがあると、海水が冷たくてもなかなか冷めないということです。
 そんな条件を持っているところに加えて、地球内部からの熱の供給があるのです。つまり、チャートには、圧力が上がるだけでなく、温度も上がっていくという仕組みがあります。地下深くなるにつれて、地殻の温度が上がっていきます。このような効果を地温勾配と呼んでいます。地表付近で地温勾配は、20から30℃/km程度です。それは、地球自身が持っている熱によるものです。堆積岩はそれほど高温にはなりませんが、熱と圧力によって、長い時間をかけて固まっていきます。
 長い時間を経るにしたがって、岩石は一般に圧力と温度が上がるおかげで硬くなっていきます。岩石の固まりぐわいをあらわす方法はいくつかありますが、そのひとつに空隙率というものがあります。空隙率とは隙間の多さのことです。深く埋もれた岩石ほど空隙率は小さくなります。
 日本の岩石でみますと、たまり始めの堆積物は、60から85%ほどの空隙率ですが、1000メートルの深さに埋もれると30%、2000メートルでは20%以下になります。深くに埋もれている堆積岩からは、いまだに水がしぼり出されていることになります。堆積岩が海でたまったものなら、しぼり出される水は、海水です。
 火山のない地帯に温泉がでることがありますが、そのような場合、深いところにある堆積岩からしぼり出された水から由来しているものです。そんな温泉は、地温勾配によって温度が上がったものです。そしてもし、その堆積岩は海底でたまったものなら、温泉は食塩泉つまり海水となります。このような水を古海水と呼ぶことがあります。その古海水は、堆積岩がたまった時代の海水です。食塩泉の温泉につかるということは、古い時代の海水につかるということでもあります。そんなことを考えて温泉に入ってみてはいかがでしょうか。


■ Letter to Reader 素朴な疑問・子供から教わる

・素朴な疑問・
素朴な疑問は、以前、シリーズで行ないました。
今回もそんな素朴な疑問でした。
当たり前に思っていることも、考えるとよくわからなかったり、
答えを出すのにいろいろな知識が必要だったり、
その答えは思わぬことを教えてくれたりします。
今回の素朴な疑問も、そんな例でした。
私自身、いろいろなことの関連に気づくという意味でも
なかなか面白いものです。
こんな内容も、これからも時々書いていこうと思います。

・子供から教わる・
ちょっと親ばかになりそうで心配ですが、そんな話をします。
以前、長男(5歳)がカタカナを知らないうちに
覚えていたので驚いた話です。
ひらかなは、教え、書く練習をさせたことがあったのですが、
根気が続かないようなので、
「嫌だったら練習はしなくてもいいよ」というと、
その通りに、ほとんど字を書く練習はしていませんでした。
でも、ひらかなは、つまりながらも
だいぶ読めるようになってきていました。
ときどきカタカナがあると
「まだ、カタカナは知らないから読めないよ」っていいながら
読んで聞かせると、一部おほえているようでしたが、まだまだでした。
しかし、ある時突然、長男がカタカナを読み出したのです。
家内が、車で長男を幼稚園まで迎えに行ったら、
前に止まっている車のボディでカタカナで書かれた文字を、
突然、読んだのです。
その理由を家内が突き止めました。
我が家では、長男がひらかなを覚えるために、
冷蔵庫にひらかなの絵付の表がはってあります。
シールを一杯張っていたり、端っこを次男が破ったりで、
もうぼろぼろですが、テープやシールで補修しながらも、
かろうじて文字が読める状態のものです。
長男がしょっちゅうそこで声を上げて文字を読んでいました。
てっきりひらかなの読む練習をしていたと思っていましたが、
よく見ると、その表には小さな字で
カタカナも書いてあることに、家内が気づきました。
ひらかなと絵を頼りにカタカナを覚えたようです。
人間は興味をもつと、知らず知らずのうちに独習できるのです。
無理に覚えさせようとすると、なかなか覚えられませんが、
「まだ読めないよ」といっていると、それに反発してでしょうか、
独習していたのです。
親ばかではなく、人間の能力のすごさには驚かされました。
大人も見習わなければなりません。
大人はついつい、条件や環境を重視します。
道具がないと始められないとか、
指導者いなとできなとか、
教科書がないと何からはじめていいかわからないとか、
みんなが見ていると恥ずかしいとか、
あれやこれや理由をつけ、
はじめもしないことがいかに多いことでしょうか。
好奇心、興味に任せて、こつこつと
好きなところからはじめればいいではないでしょうか。
それがいちばんの上達の道かもしれません。
子供から学ぶことの基本を教わったような気がしました。