地球地学紀行

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Essay■ 4_181 自身の思索を巡る旅
Letter■ 自身の変化・思索の旅
Words ■ よいお年を


(2023.12.28)
 COIVD-19によって、数年間、野外調査が自由にできないときがありました。自粛で調査自体を、自身の地質学、地質哲学への思索を考えさせれることになりました。自粛期間、自身の内面、思索を巡る旅をしていたようです。

Essay■ 4_179 西予紀行 6:須崎海岸

 今年の5月には、COVID-19も通常の5類感染症に移行しました。COVID-19がなくなったわけではなく、インフルエンザのように通常の感染症となったわけです。自粛で旅行もできなかったり、旅行するものはばかられたりと、のびのびとはできない旅となっていました。しかし、5類へに移行で、自由に各地を調査で巡ることができるようになりました。これは今年になっての大きな変化となりました。
 今年は、サバティカルで4月から半年間、愛媛県西予市城川に滞在しました。サバティカルと5類への移行が重なったことは、大きなメリットになりました。サバティカルの間、四国全域で宿泊を伴った野外調査や、西予周辺の日帰りの調査もたくさんできました。また、サバティカル終了後も、北海道での宿泊を伴う野外調査もしました。なにより、自由で旅できる喜びが味わえました。
 観光地では、人が多くて、のんびりと巡れない時もありましたが、観光業にとっては喜ばしい状況でしょう。多くの観光客が来ることで、店や旅館、ホテルの設備やサービス全般も充実してきます。これは、出歩く人にとってもメリットになっています。コロナ前の状態よりもっと活気が戻ったようです。
 自粛を経て、自由にどこでも、野外調査にでかけられるという、当たり前にできていたことが、如何に大切なことだったのかを感じることができました。ただ以前の状態に、何も変わらず戻っただけなのでしょうか。何か変わったことはないのでしょうか。少なくとも、自身には大きな違いが生まれていました。
 自粛前にも、地質哲学へと向かっていくとき、野外調査を重視していたのですが、哲学的思索と野外調査の関係について、その結びつきについての視座が定まっていませんでした。自粛中、野外調査に行けない時期、野外調査あるいは露頭や地質学に関する、より深い思索へと入っていきました。
 自身の著書のタイトルを見ても、その変遷を見ることができます。自粛前は、地質学に立脚したタイトルになっていました。内容には哲学的思索を進めていた部分もあったのですが、例えば2018年の「地球物質の多様性形成機構と火成作用の役割」や2019年の「地層の時間記録 規則性のある時間記録の解読」などとなっており、本のタイトルには哲学的思索の色合いは出ていませんでした。
 自粛になってから、思索が深まっていきました。2020年には「弧状シンギュラリティ: 島弧と沈み込み帯の地質学的重要性」として、哲学的思索の部分がタイトルに現れてきました。2021年には「地質哲学方法序説 地質哲学のための Organon を用いた普遍的テクトニクスへの Instauration」として、デカルトとベーコンの著書のタイトルから引用したものを用いていました。哲学的思索への傾倒が深まりました。
 また、地質学や科学教育の実践でも変化が現れてきました。2022年には「地質学的野外調査の解体: 地質学への新しい方法論の導入」として、これまで自身で実施してきた地質学での野外調査で導入し実践してきたいろいろな手法を「方法論」として総括しました。タイトルでは、キースやドーキンスの著作を借りています。2023年には「科学教育の拡張された方法論: 試行錯誤の実践の先へ」として自身の科学教育の「方法論」を総括してきました。これもドーキンスの拡張された表現型という考えを借りました。これら2冊では、自身の長年の各種の研究方法や試行を新しい「方法論」として、哲学的にどう捉えていくかを、実施したものになりました。
 かつては、これまでの地質学で通常に用いたいた手法(野外調査、科学教育)を深く考えずに、そのまま適用していました。しかし、自粛によって、いままで当たり前で進めてきたことを、立ち止まって再考、沈考することができました。これまで通り進めていいもの、もう一度深く考えるべきもの、考え直すべきもの、そんな機会になりました。
 本来であれば、これらの総括や方法論をもとづいて、次なる、そして新たなる地質哲学や方法論へと進んでいくべきでしょう。しかし、来年度一杯で現職が定年となります。次年度1年で、これまでの地質学と地質哲学の総括をしていきたいと考えています。
 それは、過去の研究テーマのやり直しにもなります。20数年前に追い求めた地球の起源と生命の起源を含む「冥王代」に関する地質学的のテーマがあり、一応の決着を見ていました。そのテーマに関して、ここ数年の大きな進展、特にブレークスルーがいくつかありました。それをもとに、20年目にして、再度総括のなり直しをする論文を、ここ数年書き続けています。
 それらをまとめて、さいごの著書にするつもりです。さいごの著書は、自身の「はじまり」をテーマにします。そんな「はじまり」が、さいごでもいいのではないでしょうか。深く考えた末の原点回帰です。
 少々長くなりましたが、ここ数年のCOVID-19から今年のサバティカルを経て、自身の思索を巡る旅の話でした。


Letter to Reader■ 自身の変化・思索の旅

・自身の変化・
自粛後、景観や露頭が少々違って見るように感じます。
自粛が空けた結果、観光地での人の多さや混雑、
あるいは訪れる人々の影響などは、
表面的なこと、ささやかなことでしょう。
何かもっと大切なことが起こったよう感じます。
景観や露頭は自然物なので、
COVID-19の前後で変わることはありません。
それを見ている自身の気持ちや見方が
変わってきたためでしょうか。
自身が感じていることに
敏感になっていくべきでしょう。
身近なところに、大切なことがあるのかもしれません。

・思索の旅・
退職後も、研究は進めたいと考えています。
地質学の科学的成果を上げるような手法は
この大学来たときからとっていません。
地質学に関する哲学的思索を進めること、
その思索のインスピレーションを野外からえること、
この手法であれば、野外を巡り、思索ができれば
どこに出かけても、いつまでも、続けられるはずです。
そんな思索の旅をこれからも続けたいと思っています。