地球地学紀行

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Essay■ 4_168 火星研究への旅 13:トゥーティング・クレータ
Letter■ 道東の調査・喉元すぎれば
Words ■ 明日から野外調査にでます


(2022.06.16)
 シャーゴッタイトと呼ばれる火星起源隕石は、トゥーティング・クレータから飛んできたのではないかと、推定されました。その推定には、どのような方法が、用いられたのでしょうか。

Essay■ 4_168 火星研究への旅 13:トゥーティング・クレータ

 シャーゴッタイトが由来したクレータ探しの報告の紹介しています。放射線の照射年代から、隕石が、宇宙空間にあった期間が110万年間であったことがわかってます。その頃に起こった衝突クレータを探せばいいことになります。ただし、シャーゴッタイトの岩石学的性質から、枯渇したマントルから形成された火山岩であることもわかっています。また、岩石ができた形成年代も、5億年前から1億8000万年前だとわかっています。そのような場所に起こった衝突によるクレータから由来しという束縛条件になります。
 まず、クレータができた時期を正確に調べる必要があります。クレータの形成年代は、クレータのその地域での衝突頻度とサイズの関係が、べき乗則に基づいていることから、年代を推定する方法があります。ただし、それでは誤差が大きな年代しかできず、新しいクレータを識別するのは困難なので、もっと詳細に調べていきます。
 幸い火星の表面の精密画像があるので、そこからより詳しく年代が推定できます。
 大きな衝突のときにできたクレータ(1次クレータと呼ばれています)から、周囲に破片が飛び散り、それらのうち大きなものが、再度小さなクレータ(2次クレータ)を形成します。火星には大気があるので、小さいクレータ(直径1km以下のもの)は、時間がたてば消えていきます。このような小さな2次クレータが残っているような、1次クレータは新しい時代の衝突になります。
 小さなクレータを識別し、その数やサイズを計測するのは、人手では困難になります。そこで、AIを導入して画像解析をしています。
 AIによる解析で、クレータが約9000万個も見つかりました。到底、人にはこなせない作業です。
 シャーゴッタイトは火山岩なので、これらのクレータのうち、火山平原であるものを探します。そのような場所から、19個が新しいクレータが、2次クレータに囲まれていることがわかりました。これら19個が、新しい時代のクレータとなります。そのうち、いくつかが110万年前ほどの新しいものだと推定されました。
 次はシャーゴッタイトの形成年代と火山岩のタイプを参考に、さらにクレータを絞っていきます。そのような場所にあるクレータは、「09-00015クレータ」と「トゥーティング・クレータ(Tooting crater)」の2つになってきました。いずれもタルシス高原にあり、そこはマントルプルームが上昇してできたところです。
 2つのクレータの形状をみていくと、違いがありました。後者は、氷や水があるところに斜めに衝突したと考えられています。そのような場で斜めに衝突すると、破片が宇宙空間に飛び出しやすいことがわかっているので、トゥーティング・クレータが有力な候補になると考えられています。
 今回は候補が2つまで絞られ、さらに有力候補も出すことができました。この2次クレータまでを利用してAIで画像解析する手法は、他のSNC隕石の由来にも適用可能で、また他の天体でも応用できそうです。将来性のある手法です。


Letter to Reader■ 道東の調査・喉元すぎれば

・道東の調査・
今週末から来週にかけて、道東に調査でます。
やっと思い切って調査にでかけられます。
7月はじめにも調査にでる予定です。
ただし、7月から8月にかけては、いろいろ校務があり、
調査に出る日程が確保できなくなります。
次の野外調査は、9月になってからですかね。

・喉元すぎれば・
喉元すぎれば、という状況が
コロナ対応でもでてきたようです。
私も野外調査に通常通りでかるようになりました。
感染者数は変動がありますが
現在でも、まだ高止まり状態のままです。
感染しても症状がひどくなく、
後遺症も残らないのであれば、
インフルエンザと同じような対処でよいのかもしれません。
安全を期した対処が、取られているので
それに従うするのはいいことでしょう。