地球地学紀行

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Essay■ 4_165 火星研究への旅 10:コーティングの形成
Letter■ 予約発行・島の調査
Words ■ なかなか予定通りにはいきません


(2022.05.26)
 火星の岩石の表面に、2種類のコーティングが見つかりました。それらのコーティングは、どのようなもので、いつ、どこでできたのでしょうか。謎は、解決はできていませんが、将来、重要な情報をもたらすかもしれません。

Essay■ 4_165 火星研究への旅 10:コーティングの形成

 前回、パーサヴィアランスは、紫色と黒色のコーティングされている岩石を発見したことを紹介しました。紫色のコーティングには酸化鉄があり水素とマグネシウムを多く含み、黒いコーティングにはマンガンを多く含むことがわかっています。
 紫色のコーティングの水素の存在は、水が関係している可能性があります。また酸化鉄も、鉄の酸化(酸素の存在)だけでなく、水の存在も予想されます。
 そもそもパーサヴィアランスが降り立ったこのジェゼロ・クレーターは、直径約50kmほどの大きさがあり、かつては湖であったと考えられているところです。したがって、ある時期までは、水があってもいいところになります。
 一方、黒色のコーティングされた岩石に似たものが、地球でも見つかっています。それは、乾燥した地域の露岩の表面に、黒色から茶色まで色が変化していくようなコーティングのされた岩石が見つかっています。「砂漠ワニス」と呼ばれているものです。火星のコーティングの色や、成分のマンガンが、砂漠ワニスと似ています。
 地球の砂漠ワニスは、岩石の表面で、環境条件の安定したところに形成されます。コーティングが一旦形成されると、表面は安定し、風化にも耐えられるようになります。砂漠ワニスの主な成分は、粘土と鉄とマンガンの酸化物からできています。
 粘土は、大気や流水などで風化が起こっているところにできるものです。またマンガンは、地殻では少ない元素なので、なんらかの濃集のためのメカニズムが必要になります。地球にはマンガンを利用して生きている生物(放射線耐性菌)もいて、そこには砂漠ワニスができることもあります。
 火星の黒色のコーティングのでき方も、同じようなメカニズムでしょうか。もしかすると黒のコーティングは、火星生物の痕跡の可能性もあります。ですからそこから化石が見つかるかもしれません。まだ不明でが。
 以上の可能性や推測から、次なようなシナリオが考えられます。クレーター内に水のあった時代に、紫のコーティングが形成されます。その時期には生物が誕生していました。クレーターの水が減少していき、乾燥しはじめてくると、生き残った生物が、黒色のコーティングをつくっていきます。それをパーサヴィアランスが発見しました。まあ、これは架空のシナリオですが。
 不思議なことがあります。パーサヴィアランスは、クレーターの火成岩の上を走行しています。そこは、堆積物がまたっているような場所ではありません。したがって、火成岩地帯に、このような水に関係したコーティングされた岩石があることが不思議です。このコーティングされた岩石が、どこから来たのか、いつ水に接触したのか、不明です。
 保存された試料が、いつの日か地球に持ち帰られ、その謎が解かれるのを期待しましょう。


Letter to Reader■ 予約発行・島の調査

・予約発行・
先週末から、野外調査にでていることは
前回のメールマガジンで紹介しました。
野外調査後、このメールマガジンが発行される前日まで
校務出張が2日連続して入ってきました。
そのため、このエッセイは予約発行をしています。
この予約発行のシステムがあるので本当に助かります。
今ではインターネットに繋がる環境が
どこでも当たり前に手に入ります。
野外調査の最中でも発行は可能ですが、
やはり疲れているのと、宿でも作業があるので
メールマガジンのための作業は難しいです。
幸い出かける前に予約できるので、
野外調査に集中できます。
本当に、助かっています。

・島の調査・
当初、今年度の野外調査では
北海道の島をいくつか巡る予定をしていました。
5月の調査である島は泊まる計画しました。
もともと宿が少ないのと、行楽シーズンではないの時に
やっていないことがわかり諦めました。
コロナの影響でしょうか。
また6月にいく予定のもう一つの島は、
フェリーの時間を見ると、昼に島に入り、
朝に出るという運行になっています。
フェリー発着地まで自宅から半日かかるので
講義の合間にでかけるには、
島で半日しか調査できなくなるので諦めました。
そのため、今年度は前半は、車で自由に移動できる
道内の調査に切り替えました。
なかなか当初の予定通りにはいかないものです。