地球地学紀行

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Essay■ 4_119 竜串 2:海と陸のもの
Letter■ オフィオライト・変化
Words ■ ああ、懐かしのオフィオライト


(2015.09.03)
  高知の海側は付加体が分布する地域が多いところです。付加体には、グチャグチャになったメランジュや多様な岩石もあります。そのような不思議な産状も、多様な岩石のできかたも、沈み込みで説明できます。

Essay■ 4_119 竜串 2:海と陸のもの

 竜串は、四国の足摺岬の付け根あたりに位置します。足摺岬や内陸の所々に火成岩がでていますが、それ以外のところは、四万十帯と呼ばれる付加体が広く分布している地域です。ただし、竜串の地層自体は、次回紹介しますが、付加体の上に溜まった堆積物です。高知の南半分には、四万十帯が東西に連続しながら広く分布しています。
  四万十帯は、北から白亜紀前期、白亜紀後期、新生代始新世から漸新世前期、漸新世後期から中新世に形成された付加体から構成されています。内陸ほど古く、海側より新しくなっています。これはフィリピン海プレートの沈み込みによって、付加作用が継続していることを反映しています。
  竜串付近は、四万十帯の中でも海側に位置していますから、最も新しい漸新世後期(5000万〜4000万年前)から中新世(3000万〜2000万年前)に形成された地層となります。付加体は今も形成されているわけですから、海洋プレートに押されてつぎつぎと陸側に付け加わっています。最新の付加体は海溝付近の地下にあり、竜串あたりの付加体は、2000万年かかって海洋プレートの沈み込みによって陸側に移動しながら、持ち上げられたものです。
  タービダイト層は、もともとは整然とした砂岩泥岩の互層の地層として形成されたものです。しかし、付加体に取り込まれるときには、整然とした地層が乱れることもよくあります。平らな地層が、斜めに沈み込むプレートの力を受けることになります。タービダイト層には斜めから力がかかり、地層を切るような断層が形成されます。付加体のタービダイト層には、整然とした地層から、断層が多数ある乱れたもの、ひどい時にはもとの岩石の並び(層序といいます)が、めちゃめちゃに壊されたものまであります。
  断層が規模が大きくなると、タービダイト層の岩石だけでなく、起源の違ういろいろな岩石が混じったものができることもよくあります。このような大規模は断層帯の岩石部は、メランジュと呼ばれていまます。
  大きな断層ができると、付加体の中に、海洋の構成物が取り込まれることがあります。これは、いくつかの段階を追って起こる現象です。
  沈み込み帯では、巨大なプレートの衝突が起こっているところですから、沈み込む側の海洋プレートにも、大きな力がかかっています。海洋プレート上部に力がかかり、地下深部で断層が形成され、付加体の中に断片として取り込まれます。その後付加体の中に形成された大きな断層は、タービダイト層と取り込まれた海洋プレートまで及ぶことがあります。
  海洋底を構成していた岩石のうち、陸に持ち上げられた一連の岩石を、オフィオライトと呼んでいます。海洋プレートの上部は、海洋底に溜まった層状チャートや海洋地殻(玄武岩からできています)からできています。付加体の中には、オフィオライトの断片がよく見られるので、沈み込み帯では普通に起こる現象なのでしょう。
  メランジュには、さまざまな岩石が混在しています。海洋プレートの構成要素、タービダイト層の構成要素が、量比もさまざまに入り乱れたものなります。付加体では、整然としたタービダイト層、オフィオライト、多数の断層ができているもの、メタンジュになっているものまで、多様なものが見られます。しかし、これらの原動力は海洋プレートの沈み込みです。
  オフィオライトには海の情報が記録され、タービダイトには陸の情報が記録されています。付加体は、別々の場所に別々の時期にでできたものが、あるとき両者が混在して、その後長い時間を経て陸地に分布することになったのです。付加体は、なかなか面白い素材ですよね。さて、次回から、いよいよ竜串の地層の話です。


Letter to Reader■ オフィオライト・変化

・オフィオライト・
私が地質学を目指した卒業研究のテーマは
北海道のオフィオライトでした。
その後、修士、博士過程の研究素材も
一貫してオフィオライトでした。
オフィオライトは、付加体の重要な構成要素です。
日本列島には各地にオフィオライトが分布しています。
私は、北海道からスタートして
中国から近畿地方にかけての
各地のオフィオライトを調べていました。
それも、今は昔です。
今では、海側の層状チャートと陸側のタービダイトに
興味をもって野外で観察しています。
陸地の調査ですが、過去の海と陸に思いを馳せています。

・変化・
長らく地質関係のエッセイを続けていると思うのですが、
自分の興味の中心が
エッセイのテーマになることが多くなっています。
しかたがないことだとは、思います。
面白いことに、15年以上も続けていると
自分自身の興味が変化していることも見てとれます。
かつては、オフィオライトからスタートし、
同位体組成の分析法の開発にうつりました。
その後、転職してからは、神奈川の地質になりました。
再度の転職で、人工衛星による世界の地質へ、
さらに河川や砂、石ころへと移りました。
最近ではタービダイトや層状チャートなどの堆積岩へと
興味は変わっています。
私は興味が変化するとテーマを変えてきました。
私のように気軽にテーマを変える人もいれば、
一つのテーマを長く研究し続ける人もいます。
いずれも、研究姿勢としてはありうるものでしょう。
どちらをとるかは、
研究をおこなう人の考え方によるのでしょう。