地球地学紀行

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Essay ■ 4_70 納沙布岬の輝石砂:道東の旅2
Letter■ 霧の岬・土産物屋
Words ■ 霧を通して地下の出来事が見える


(2006.05.18)
 道東の旅の2回目は、納沙布岬の話です。納沙布岬で見られる岩石を観察することが、今回の2つ目の目的でもありました。しかし、天気だけはままならず、2つの目的地とも雨にたたられての調査となりました。


■Essay 4_70 納沙布岬の輝石砂:道東の旅2

 北海道の東には、2つの半島があります。北側に知床半島、南側に根室半島です。知床半島には先端に知床岬があり、根室半島には納沙布(のさっぷ)岬があります。この納沙布岬が、今回の調査の目的地のひとつでもありました。
 知床半島は世界遺産に選ばれて、多くの観光客を集めています。納沙布岬も観光地でもあり、北方四島返還の最前線としても、「北方館」や「平和の塔」などがあり、観光客を集めています。納沙布岬から見ると、歯舞諸島の水晶島はすぐ近くに見えます。北方四島が身近に思えてきます。
 私が、納沙布岬を訪れたときは、小雨が降り、霧が出ているような天気でした。そのせいかゴールデンウィークの中の休日だというのに、思ったほど観光客は来ていませんでした。雨の小降りのときを見計らって、一箇所だけ、岬の浜に降りて、石と砂を見ることができました。
 知床半島は、現活動中の活火山がある火山列ですが、根室半島はもっと前に活動した火山活動です。前回紹介したように、根室半島では、「車石」と呼ばれるような枕状溶岩を形成するようなマグマの活動が、海底でありました。根室半島は、白亜紀後期から古第三紀まで、海底で地層がたまっているところでした。そのような堆積中の地層の中にマグマが活動していった場所です。
 納沙布岬には、大きなマグマの塊が、地層中に入り込み(貫入といいます)、ゆっくりと固まったものが見られます。厚さ150mもある大きな火成岩となっています。
 火成岩の層は、冷えるときに成分を変化しながら固まりました。もともとは車石と同じアルカリ玄武岩のマグマです。マグマの大きな塊がゆっくりと冷えて、結晶を形成し集まって岩石となっていきました。結晶が集まると、残ったマグマは集まった結晶の分だけ、成分が変化していきます。このようなマグマの組成の変化(分化といいます)が、冷却に伴って起こりました。そして、マグマ全体は、組成が変化しながら岩石の層を形成していきます。そのような火成岩を層状分化岩体と呼んでいます。
 層状分化岩体は、地層に接した上下から冷えていきます。上下は、アルカリ玄武岩が固まった粗粒玄武岩で、内側に向かって重力の影響をうけながら結晶は移動して、モンゾニ岩から閃長岩へとなり、黒っぽい岩石から白っぽい岩石へと変化していきます。層状分化岩体は、地下深部で固まるマグマの過程を、地表で見ることができる非常に貴重なものです。
 アルカリ玄武岩のマグマの活動できた層状分化岩体は、根室半島では8ヶ所知られています。しかし、同じマグマの活動は、根室半島より先の歯舞諸島にも連続しているのです。マグマの活動には国境などありません。
 納沙布岬では、層状分化岩体が海岸で観察することができます。さらに、火成岩の主要構成鉱物である輝石や磁鉄鉱などが、波の浸食や風化で海岸の砂にたくさん混じっています。そして、さらに波に作用で、比重の違う暗い緑色の輝石の砂や黒い砂が、白っぽい砂とは区別されている浜があります。それは自然の妙でした。



■Letter to Reader 霧の岬・土産物屋

・霧の岬・
私が納沙布岬を訪れたのは、2回目でした。
最初に訪れたのは、7年ほど前の秋のことでした。
そのときも寒く霧が出ていました。
いずれも冷たく、暗い天気だったので、
どうしても納沙布岬は暗い印象が残っています。
天気いい日に行けば、印象は違ったのでしょうが、
根室半島は冷たく、霧のかかったところの印象が強かったです。
層状分化岩体とじっくり見たかったのですが、
天気に恵まれず、海岸も一箇所しか降りれなくって、
十分な調査ができませんでした。
機会があれば、天気のいい日に、
じっくりと海岸沿いを巡りたいものです。

・土産物屋・
雨や霧のときには、野外調査はつらいものです。
野外調査だけでなく、観光旅行でもそうでしょう。
雨が降っていれば、外に出て見て回るのが億劫になります。
しかし、チャンスを考えると何度もこれないところなので、
私は、雨でも景色や石の写真が撮れないかと
外をうろうろしています。
観光地では、家内は、もっぱら土産物屋さんをうろうろしています。
実は前回もそうでした。
ですから、家内は、納沙布岬では、
土産物屋さんが一番記憶に残ったところではないでしょうか。
実は、別に霧や雨でなくても、家内にとっては、
土産物屋さんが重要なチェックポイントのようです。
まあ旅行ですから、思い出は、
それぞれの人がそれぞれにやり方で残すものです。
それをとやかく言うつもりはありません。
しかし、私の気づかない間に、どんなに短時間でも、
土産を買っていくテクニックは見上げたものです。