地球地学紀行

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Essay ■ 4_57 柱状節理:春の渡島半島1
Letter■ 道南の黄砂・子供の見方
Words ■ ゴールデンウィーク後半は自宅でのびりと


(2005.05.05)
 ゴールデンウィークの前半に道南に出かけました。今回は、渡島半島をぐるりと一周しました。そのときに見た地質現象と感じたことを紹介しましょう。


■Essay 4_57 柱状節理:春の渡島半島1

 春の渡島半島の海岸沿いを、3泊4日で一周しました。北海道南部の渡島半島にあたる地域は、道南とも呼ばれる地域です。私は、以前にも渡島半島は何度か回っています。今回は、海岸線の調査として、全道をつなぐために、渡島半島を一周することにしました。
 時計回りに半島を巡りながら調査をしました。噴火湾沿いに海岸を走り、渡島半島先端の東半分の亀田半島をめぐり、函館湾、そして渡島半島先端の西半分の松前半島を回りました。幸い天気に恵まれて予定通り調査を進めることができました。
 渡島半島は火山が各地にあり、火山岩やその砕かれた岩石などを、いろいろな火山岩の形態を見ることができました。
 ほぼこの今回と同じコースを、反対周りに、以前、まわったことがあります。もう30年近く前になります。巡検とよばれる地質見学旅行で、当時私は大学の2年生として、先生に連れられて、このコースを巡りました。そのときの記憶はそれほど残ってないのですが、いくつか思い出されるものがあります。そんな記憶を、今回は思い出しながらまわることになりました。
 現地を見るまでまったく記憶から消えていたところが、現地にいってみると、思い出されることがありました。それまで一度も思い出すことがなかったのに、現地に行った瞬間に思い出すのです。30年近く前の記憶だというのに不思議なものです。
 そんなひとつに柱状節理がありました。実は、その柱状節理の崖の光景だけは鮮明に覚えていたのです。しかし、その柱状節理を、渡島半島のどこで見たのか正確に覚えていなかったのです。実は渡島半島の東側の海岸で見たのではないかと勘違いしていました。しかし、この乙部町の柱状節理を見た瞬間、「あ、ここだ」と鮮明に記憶が蘇りました。
 友人が立っていた光景、先生が説明されていた姿(内容は申し訳ありませんが覚えていません)も、道路わきで車が時々通るのも、同時に思い出しました。しかし、その景観の不思議さだけが記憶として残っていたのでした。
 乙部町の海岸沿いにみられる崖に、柱状節理がきれいに出ています。ここの柱状節理は、安山岩のマグマが岩石として固まったときに、できたものです。一般にマグマは、固まるとき体積が少し縮みます。その減った分が割れ目(節理といいます)となります。割れ目には、規則性があります。マグマが固まるときの形と冷えるときの冷え方によって割れ目のでき方が、いろいろな形状となります。長く柱状になって節理ができたものを、柱状節理といいます。他にも板状、方状、放射状などの形状ができることがあります。
 今回見た柱状節理は乙部町鮪ノ岬(しびのみさき)というところにあります。岬の付け根辺りに道路があり、道路はトンネルでその岬を潜り抜けます。岬は海に向かってゆるく傾斜して、海に入り込んだような形になっています。その傾斜はマグマの形を反映したものです。マグマが岩石の中に入り込んで(貫入といいます)冷え固まったのです。
 ここでは、柱状節理はマグマの真ん中部にできています。柱状節理の高さは、トンネル付近では10mほどの厚さがあります。上部と下部にも節理があるのですが、不規則な割れ目となっています。下部は海岸の波打ち際で海食台のようにみえます。
 不規則な節理の間に、整然とした柱状節理が岬の先端に向かって伸びています。まるで人工物のような不思議な景観をかもし出しています。この不思議な景観を30年近くたった今も、私は覚えていたのです。
 これが人工的なものだときっとこの不思議さは出てこなかったでしょう。自然の柱状節理と人工物との違いは、その不規則さです。柱の形は、だいたい5角形になってるのですが、どれひとつと同じものがありません。また、5角形だけでなく、4角形、5角形、6角形もあります。また、正4角形、正5角形、正6角形になっていものは、ひとつもありません。でも、全体としてみると整然と柱が密集して並んでいるように見えます。
 こんな不規則でいて、全体として規則的に見えるものなど、果たして人工的につくることができるのだろうか、ついつい考えてしまいます。もちろん乱数やカオスなどを発生させればできるでしょう。でも、人工物はきっと何のためということが前提にあるでしょう。
 しかし、ここの柱状節理は、自然がつくった、ただあるがままの造形です。そこには存在意義を問うこともありません。意義と問うのは人間の側で、自然には正確につくらなければならない必然性もありません。そんことを考えていくと、自然の不思議さがますます増してきます。多分私は、この柱状節理は一生忘れ得ないものとなったでしょう。そして、その場所も今度は覚えていることでしょう。



■Letter to Reader 道南の黄砂・子供の見方

・道南の黄砂・
道南は天気がよかったのですが、
初日の夜に黄砂とともに雨も降りました。
雨の黄砂のつくるまだら模様は、これまら不思議な模様でした。
窓ガラスは拭いたのですが、
旅行中ですから車を洗うこともできず、
黄色いまだら模様のまま走り続けました。
この時期、北海道でも道南の方では
よく黄砂は見られるらしく、
地元の人は驚かないようです。
私の住む札幌近郊ではまれに降ることありますが、
珍しい現象となります。
桜より先に、大陸から春の便りが来ました。

・子供の見方・
今回の調査は家族連れで行きました。
乙部町の柱状節理のある場所で、
子供に「柱は何角形か」聞いたら、
一生懸命子供が数えて「11角形」と答えました。
大きな割れ目も小さな割れ目を区別せず数えたのでしょう。
私としては、5角形か4角形と答えてもらいたかったのですが、
実際に近づいて数えてみようとすると、
確かに正多角形ではなく、いびつな形をしています。
ですから、4、5とか6とはっきりとしたものもありますが、
不規則な多角形もたくさんあります。
さすがに11角形は、細かい角も数えすぎかもしれませんが、
先入観を持ってみているせでしょうか、
あるいは知識を優先しているのでしょうか、
はたまた、ざーっと見ているせいでしょうか
5角形が多いような気がします。
こんな柱状節理は、私のように子供の記憶にどれだけ残るでしょうか。
こればかりは親の思い通りにはいかないはずです。
子供の自身の記憶ですから。