地球地学紀行

表紙に戻る


Essay ■ 4_40 生の自然:留萌
Letter■ 川の調査・留萌川
Words ■ 旅はいいもの


(2003年10月16日)
 夏の終わりに、留萌川の調査に1泊2日で出かけました。もちろん宿泊は、温泉です。ただし、留萌には温泉が神居岩温泉しかありませんでしたので、他の選択肢はありませんでした。


■Essay 4_40 生の自然:留萌

 北海道、札幌から80kmほど北に、日本海側に面して暑寒別岳(1491m)を主峰とする山塊があります。山塊の北西の海側には、留萌市があります。山塊の西側を巡る国道231号線は、断崖絶壁の険しい道です。
 そんな海岸沿いの道路に一番奥まった雄冬は、陸の孤島でした。まともな道路がなく、船でしか往来ができないようなところでした。いまでも海岸線沿いの道路は崩落危険箇所でもあり、雪や雨、風が強いと通行止めになります。
 切り立った断崖絶壁は、地質学者には、じつは、喜ばしいところなのです。なぜなら、断崖絶壁は、岩石や地層が良く見えるところだからです。地質学者には、なかなか見ごたえがある景色となっています。暑寒別の山塊は火山でできています。ですから海岸線の露頭では、溶岩がつくるいろいろな構造や、溶岩が海に入ったときできる構造が見ることができます。
 溶岩の構造としては、節理(せつり)というものがいろいろみられます。節理とは、マグマが固まるとき体積が少し減ります。すると溶岩は縮むときに割れ目ができます。このような割れ目を節理とよんでいます。その節理は、溶岩のかたちや冷え方によって、さまざまなものができます。溶岩が固まるときにできる割れ目が柱のようになっている柱状節理、放射状になっている放射状節理などがみれます。
 溶岩が海に入ったときできる構造は、特有のなものがあります。マグマが海水に入ると、急激に冷やされるので、割れてしまいます。壊れたものが集まった岩石ができます。マグマは急激に冷えてしまうので、ほどんど結晶もできる余裕もなく、固まってしまいます。このような溶岩をハイアロクラスタイト(hyaloclastite)と呼んでいます。ハイアロ(hyalo)とはガラス、クラスト(clast)とは壊れたという意味で、最後のアイト(ite)と石につける接尾語です。
 マグマが急令されても、壊れることなく丸い枕のようになって固まることがあります。でもあとからマグマが押し出してくると、枕状の溶岩が一部に穴が開き、次の枕ができます。これが積み重なったような溶岩もできます。これを枕状溶岩といいます。
 ハイアロクラスタイトや枕状溶岩は、火山の噴出物でも海中でできる特殊なものですが、海洋底の岩石の調査が進むにつれて、その様子が良くわかるようになってきました。そして特別なものではなく、陸地にも過去の海底の岩石が持ち上げられたオフィオライトと呼ばれるものにも、たくさんあることがわかってきました。
 人を長く拒絶してきた自然は荒々しいものでしたが、そのおかげで、生の自然を目の当たりにすることができました。そして、そんな自然に戦ってきた人の営みを、小さな村々に感じることができました。



■Letter to Reader 川の調査・留萌川

・川の調査・
今年も、旅シリーズが続いています。
これは北海道の地質学者にとっては、宿命とも言うべきことです。
しょうがないことなのです。
夏しか調査できないのですから。
そして処理しきれないほどの資料が研究室に積みあげられていきます。
これは、調査には出れない雪の季節に、こつこつと処理していきます。
私の研究テーマは、北海道の川と火山です。
地質学的資料として、川では、石ころ(転石といいます)と砂を採集します。
石ころは、統計処理できるように50cm四方の枠内で
大きいものから順に、100個の石ころを拾い集めます。
北海道の一級河川河川は13個あります。
それを3年ほどで調査し、画像付のデータベースをつくろうと考えています。
火山では岩石資料を採集します。
北海道には100座ほどの火山があります。
できれば、その火山を何とか調査したいと考えています。
これには、時間がかかりそうなので、
慌てないことにしています。
もちろん、どこでも大量の写真を撮影します。
砂は、いたるところで採集します。
また、北海道の川と比較するために、
日本各地の代表的河川の調査をしています。
などなど出かけなければならないところが一杯あります。
でも、一応予定を立てて出かけていますので、
川の調査は、3年ほどで終了するつもりです。
夏にはお付き合い願います。

・留萌川・
留萌川は北海道の一級河川でもいちばん小さいものです。
長さ(幹川流路延長)が44kmで、流域面積でも270平方kmしかありません。
ちなみに北海道でいちばん大きな河川は、
石狩川で、長さ268km、流域面積14,330平方kmです。
こんな小さな川ですが、護岸がいたるところになされて、
自然の川の面影をもはや見ることはできません。
一級河川ともなる資金が導入され、下流の町の安全を守るために、
治水がなされていくようです。
少し、驚かされました。