地球地学紀行

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Essay ■ 4_39 実物と歴史の重み:ロンドンにて
Letter■ ダーウィンセンター・インベスティゲイション・アースラボ
Words ■ どんなに金やものがあっても、人がいないと有効利用できない


(2003年10月2日)
 今回のイギリスへの旅でも、最後はロンドンでした。3日間ロンドンを見学しましたが、その大部分を大英自然史博物館で過ごしました。そこで感じたことを述べましょう。


■Essay

 前回の滞在では、大英博物館だけを見ていました。ですから、今回のロンドン滞在では、いろいろなところを見て回ろうと当初は考えていました。しかし、思い直して、ひとつのところをしっかりと見たほうがいいのではないかと思い、大英自然史博物館をみることにしました。
 自然史博物館は、大英博物館が手狭になったので、1880年に現在の場所に移転してきました。現在の建物も立派で巨大ですが、今では手狭になったことと、展示を更新するために、改修、増築がされています。新しくなって、Life GalleriesとEarth Galleriesができ、Earth Galleriesは全く新しい展示となっています。まだ、改修や増築は続いています。
 Earth Galleriesは、現代風の展示手法をつかっています。ストーリーを重視した展示で、子供たちへの教育的目的が強く出ています。Life Galleriesでは、従来の展示手法をそのままにして、コーナーごとに新しい展示をつくっています。環境の展示や人体の展示など、実物より解説やストーリーを中心に、映像や装置を駆使して展示をしています。
 Life Galleriesには、鉱物や化石、生物の昔ながらの展示室が残っています。いわゆる分類展示です。また、樹齢1300年のメタセコイヤの巨大な輪切りやゾウやキリン、クジラの骨格や実寸模型まで、所狭しと昔風のコレクションの展示がおいてあります。その歴史と物量に圧倒されます。
 鉱物の研究者に、スタンレイ氏(C. J. Dtanley)にバックヤードである研究室や実験室を見せてもらいました。そのときに新しい展示室は展示業者が考えたのだといってました。よく聞くと、新しい展示場は暗すぎるし、ディズニーランドのようだと批判的でした。展示を作る人と資料を管理している人、研究者がそれぞれ考えが違うのだともいってました。
 私は以前、博物館に勤めていたのですが、そこでも似たような悩みがありました。いずこも同じような悩みを抱えているようです。
 今まで、大英自然史博物館は、金銭的なことは気にしなくても本来の博物館の業務に専念できました。でもこれからは、国民への還元、普及、教育など重視し、なおかつそれをアピールしなければならないようです。研究者は研究をしていればいいという時代ではなくなってきたのです。市民や企業からの献金やスポンサーなど求めることも重要になってきています。実際にEarth Galleriesの宝石やきれいな鉱物展示のスポンサーには、デビアスというダイヤモンド関連の会社が大きな貢献をしています。
 大英自然史博物館は、いま大きな変貌の時期にさしかかっています。100年以上にわたってつづけてきた自然史博物館の展示手法が変わりつつあります。多分今は模索の時期ではないでしょうか。アメリカ的(デズニー的)あるいは日本的(イベント的)な展示がイギリスの博物館が一番いいやり方なのでしょうか。大英博物館は従来の物量による展示で、いまだに、多くの集客をしています。さて、大英自然史博物館はこれからどうなっていくのでしょうか。
 ひとつ面白いことがありました。美術の大学生でしょうか。博物館内で科学イラストのためでしょうか、いたるところで座り込んスケッチをしています。スケッチをしている場所は、すべての学生は、古い昔ながらの展示室の標本でした。一方、Earth GalleriesやLife Galleriesの新しい展示室ではだれも見かけませんでした。これは、重要な意味あることなのかどうかわかりませんが、なにかを暗示しているような気がしたのは、考え過ぎでしょうか。



■Letter to Reader リゾート開発・地域差・日本人

・ダーウィンセンター・
ダーウィンセンターとは、大英自然史博物館にある収蔵庫です。
収蔵庫をガラス張りに、作業風景を見せています。
現在完成している収蔵システムは液浸のためものです。
8階建ての建物です。
同じ規模の収蔵庫を、植物と昆虫のために
2007年に完成予定で建てているそうです。
そして、ダーウィンセンターのもうひとつの重要な役割は、
1階の一角に研究者がライブで一般向けに講義を行うことです。
映像装置は整備されています。
専属のスタッフが3名ついて運営しています。
4つの大きなスクリーンを管理する人、
カメラマン、そして司会者の3名です。
これはすばらしいアイディアとだと思います。
300人からの研究者が自然史博物館にはいるのですから、
1年に一度その講義のノルマをこなせば、
毎日の講義が実現します。
これは、すばらしいことです。
毎日、自然史に関する研究者の講義が、
ここでは、無料で行われているのです。

・インベスティゲイション・
学校と一般向きに科学教育をする部屋があります。
博物館の地下の一角にありました。
午前中は3回、学校向けに予約制でおこなっており、
午後からは一般の人向けに予約で利用できるようにしています。
実物資料をトレイに数個入れたものが100ほどあります。
それぞれのトレイは、関連のあるものが入っています。
岩石、鉱物、化石や動植物などあります。
そして、それを自分たちで調べていく仕組みです。
トレイのほかに屋外には、植物が植えてあります。
計測する道具、拡大する道具などを使って、いろいろ調べていきます。
コンピュータを使って名前を決めていったり、
関連の資料を調べたり、
展示場の展示とリンクさせたりしています。
なかなか工夫されているものです。

・アースラボ・
Earth Galleriesには、アースラボというところがあります。
そこでは、イギリスの地質に関する情報や質問などを受けています。
一般の人が自由に利用することができます。
イギリスの代表的な化石、岩石、鉱物の標本が展示されています。
また、地質に関する文献も充実しています。
また、地質学者が常駐していますので、
即座に疑問に答えてくれます。
地質だけにこれだけの勢力を裂いているのというのは
すばらしいことです。
そして、設備や資料もなかなか充実しています。
日本でもまねしてもらいたいのですが、
大英自然史博物館だからできることなのかもしれません。