地球地学紀行
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Essay ■ 4_36 佐田岬半島:夏の黒瀬川2
Letter■ 人工と自然・原子力発電所
Words ■ やっぱり自然が好き


(2003年8月21日)
 四国、愛媛県の北西部に、九州に向かって伸びている佐田岬半島があります。佐田岬半島の先まで、石を見に出かけました。夏の暑い日の見学でした。海水浴客を横目に、石を見てきました。


■Essay

 佐田岬半島を貫くようにして国道197号が走ります。佐田岬半島の先端の三崎港から四国九四フェリーで九州に、この国道は続きます。197号の東は、愛媛県東宇和郡城川町を通り抜けて、高知県の須崎まで伸びています。この国道は、以前はくねくね道で、「いくな酷道」(197国道)と呼ばれるほどひどい道だったそうです。今では2車線のまっすぐな道になり、かなり走りやすくなっています。
 そんな佐田岬半島をつくる石を見に行きました。佐田岬半島の海岸は、緑色の縞のある石からできています。石積みの塀の多くは、この緑色のしましま石からできていました。この石は、緑色片岩と呼ばれています。緑色でも、さまざまな色合いの縞模様をもつ変成岩です。高い圧力で、玄武岩の溶岩や玄武岩の破片からできた堆積岩が、変成されたものです。
 これらの緑色片岩は、三波川変成岩の一部です。きれいな石なので、三波石として庭石や積石に利用されています。三波川変成岩は、緑色片岩だけでなく、いろいろな石が見られます。
 今回みたのは、佐田岬半島の先端の町、三崎町の南側の海岸、長浜というところです。長浜は三波川変成岩の崖の下に砂浜が広がる海岸で、人っ子一人いませんでした。もったいないようなきれいな砂浜を、独り占めできました。暑く、泳ぎたくなるような日でしたが、ここへ来た目的は石を見ることです。
 長浜には、緑色片岩の露頭はなく、蛇紋岩と黒色片岩がありました。蛇紋岩と黒色片岩が断層で複雑に接していました。
 蛇紋岩とは、蛇の体のように、青や黒、緑などの色が、てかてか光って見える石です。蛇紋岩は、マントルをつくっているカンラン岩に水が加わってできた岩石です。
 黒色片岩の片岩とは、細かい縞模様をもつ岩石で、ハンマーでたたくと、縞模様にそって割れやすく、時には手でもはがれます。黒色片岩は、黒い色をした片岩で、堆積岩のうち泥岩のような細かく黒っぽい石が強い圧力による変成作用を受けたものです。
 その他にも海岸にはいろいろな石の転石がありました。緑色片岩ももちろんありました。砂岩の変成された砂質片岩、石灰岩が変成した石灰質片岩。それらが交互に重なった片岩も見かけられました。石英片岩を探したのですが見当たりませんでした。
 三波川変成帯には、各種の片岩が含まれています。場所によっては、さらに圧力の強いところでできる変成岩も見つかっています。三波川変成帯は、温度より圧力の強い場所でできたことになります。そのような場所は、地球の深い場所で、それほど温度の高くないところということになります。
 現在の地球では、それは、海溝より深部だと考えられています。海溝深部とは、海洋プレートの沈み込むところです。海洋プレートは冷たいまま、沈み込みます。すると温度はそれほど高くならずに、圧力だけが上がっていきます。ですから、三波川変成帯は、昔のプレートの沈み込み帯の深部の岩石が、顔を出していると考えられています。佐田岬半島とは、昔に沈み込んだ海洋プレートが変成作用を受けたのち、地表の持ち上がられたものだったのです。



■Letter to Reader 人工と自然・原子力発電所

・人工と自然・
三崎の北向きの入り江に海水浴場がありました。
しかし、見るからに人工の防波堤と持ち込まれた白い砂からできています。
防波堤はこの地にない花崗岩で作られ、
砂も、この地にはない花崗岩からできたマサと呼ばれる白い砂です。
少し離れていますが、南向きの海岸には、いい砂浜があります。
それを利用する人はなく、人工の砂浜で海水浴をしているのです。
利用している人も、これは人工の砂浜であることよく知りながら使っています。
これで、いいのでしょうか。
自然の恵みをそのまま利用すれば良いのではないでしょうか。
もちろん、自然のままですから、荒々しさや危険も伴うかもしれません。
でも、それは自然の中で遊ぶための、当たり前のルールではないでしょうか。
それが自然との接し方ではないでしょうか。

・原子力発電所・
佐田岬半島の伊方には原子力発電所があります。
そのアピール館があり、立ち寄りました。
原子力発電所の仕組みや、安全対策、そして安全性を紹介しています。
クイズやゲームもあり、大人も子供も楽しめるようになっています。
そして物産展もあります。
大変なお金をかけて、このアピール館は、維持運営されているようです。
これも消費者である電気使用者のお金から出ているはずです。
このようなことは、宣伝費として、当たり前なのかもしれません。
この原子力発電所は、四国の4分の1の電力を供給しているようです。
ですから、この原子力発電所は、もはや中止することはできません。
原子力発電所が本当に安全かどうかは、わかりません。
もし何かがあったとき、水力発電所や火力発電所より
原子力発電所は危険です。
それを多くの人は直感的に恐れているのです。
理屈や安全対策をいくら説明しても、
人々はその危険性を肌で感じています。
「もしも」ということを、誰もが感じていることなのです。
安全対策の予想を超えた「もしも」があったとき、どうなるか。
それを多くの人は心配しているのです。
私たち、人類はとんでもないものに、
生活の基盤を依存しているのではないかと心配になってきました。
それに日本人は、原子力の怖さをいちばん知っている国民でもあるのです。