地球地学紀行
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4_25 幌満:日高山脈1

(2002年10月17日)
 ホロマンという地名をご存知でしょうか。日本の地名です。漢字では、幌満と書きます。知る人ぞ知る地名です。特に、地質学を学んだ人には、聞き覚えがあるはずです。今回は、幌満の石について紹介しましょう。

 2002年7月30日から2泊3日で、北海道の日高地方にいってきました。その一番の目的が、幌満をみることです。人を案内するために、下見として、7月上旬にも、ここを訪れています。今回、幌満にいったのは、何年ぶりでしょうか。学生のとき、2、3度訪れました。20年ぶりくらいでしょうか。ほとんど覚えていないので新鮮な部分と、かすかな思い出と、以前来たことがあるという記憶で、懐かしいような、不思議な気持ちでした。
 幌満は、北海道様似郡様似町のなかの小さな地域の地名です。アポイ岳が有名ですが、アポイ岳もかんらん岩からできています。そこには、かんらん岩と呼ばれる岩石が、それもほとんど変質もなく、マントルにあったときのまま地表に出ていることで、地質学では、世界的に有名です。2002年8月26日には、様似町でかんらん岩の国際学会も開かれました。
 アポイ岳は日高山脈えりも国定公園の一部です。また、アポイ岳周辺は国指定の特別天然記念物「アポイ岳高山植物群落」にもなっています。高山植物群落で特別天然記念物に指定されているのは、岩手県の早池根山、富山県と長野県にまたがる白馬岳です。
 アポイ岳が、こんなに有名なのは、理由があります。標高は810.6mなのですが、なぜかこの山だけは、350m付近から高山植生帯の景観をもっているのです。本州中部なら、2500m以上、北海道でもは、高山植生帯は1000m以上です。なのに、アポイ岳は、その森林限界が非常に低いのです。それは、かんらん岩の特徴に関連があるのです。
 かんらん岩は、鉄やマグネシウムが多い岩石です。そのうち、マグネシウムは、植物の生育にはよくない元素です。また、窒素、リン、カリウムなどの植物の栄養となる元素も少ないので、植物が育ちにくく、特殊な環境となっています。アポイ岳には、アポイ岳に特徴的にみられるヒダカソウ、エゾクゾリナ、アポイカンバような珍しい植物、ヒメチヤマダラセセリ、アポイマイマイなどの珍しい動物もいます。
 かんらん岩が、なぜ、それほど珍しいかというと、マントルという部分を構成している岩石だからです。マントルとは、地球の深部にある岩石からできた部分で、地殻より下部にあります。かんらん岩は、地球深部にある岩石ですから、地表ではなかなか見ることのできないものなのです。
 地殻は、海で10km、大陸では40km、列島では20kmあります。それより下の岩石でできた部分はすべて、マントルで、地表から2900kmがマントルになります。地球の半径でいうと45%が、体積では83%マントルにあたります。それより深部には、鉄でできた核と呼ばれるものが、地球の中心まであります。
 マントルをつくっているかんらん岩は、オリーブ色のかんらん石を主として、濃い褐色(あめ色)の斜方輝石、エメラルドグリーン(濃い緑色)の単斜輝石、そして少量の真っ黒のスピネルかあるいは白く透明感のある斜長石からできています。このような鉱物の組み合わせ、量比によって、かんらん岩は細分されています。マントルのつくっているかんらん岩は、レルゾライトと呼ばれるものです。
 幌満のかんらん岩は、地下60から75kmの上部マントルが地表に上がってきたと考えられています。それは、1500万から2000万年前におこった日高山脈の形成にともなっておこった現象なのです。