地球地学紀行
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4_12 氷河

(2001年8月16日)
 氷河は、日本では馴染みがありません。高山に少しだけ山岳氷河の地形を残すだけです。しかし、北米大陸では氷河や氷床は、地形や風景を形づくる重要な役割を果たしました。そんな氷が織りなす景色を見ていきましょう。

 カナダ、アルバータ州ジャスパー国立公園は、カナディアン・ロッキー山脈の中にあります。その南の入り口には、非常に大きな、コロンビア氷床があります。
 標高約2000メートルにアイスフィールド(Icefield)というところがあります。ここは、コロンビア氷床から流れ出ている氷河の一つアサバスカ氷河あリます。アイスフィールドは、村とも呼べないような、さびしい荒涼としたところです。ビジターセンター兼ホテル兼氷河への観光ツアーバスの発着所兼食堂兼みやげ物屋の建物が1つあるだけです。
 そこに1泊して、氷河をみました。駐車場から、歩いて15分ほどで、アサバスカ氷河の末端にたどり着きます。
 氷床や氷河が織りなす地形には、特徴的なものがあります。山の上に、氷床(Icefield)があり、その山から、氷が落ちて流れたものが氷河(Glacier)です。氷床から氷河への境界は、氷爆(Icefalls)、クレバス帯(Transverse Cevasses)と呼ばれる急激な境界部があります。氷河の両側には、土砂からできたモレーン(morain)という高まりがあります。モレーンから崩れた土砂が岩屑(debris)と呼ばれ、氷河の上に被さっています。氷河の先端には、土砂の小山がいくつも形成され、氷河が溶けた水が、川となって扇状地デルタつくり、池もつくります。
 雪上車(Snowcoach)で氷河に上がっていくツアーがあり、参加しました。人の身長ほどもある大きなタイヤをつけたバスで氷河を登っていきます。氷河の上を流れる川があり、所々深い穴が開いており、川の水がその中に落ちこんでいます。氷河の中にも川が流れているのです。氷河は氷ですの、クレパスなどの割れ目があると、そこから覗く氷は、青あるいは緑のような、えもいわれね色合いを持っています。
 氷河は水のように速くはありませんが、低い方に向かって流れています。そのスピードは毎年30メートル弱です。下の岩に接している部分は、遅くて毎年5メートルほどです。遅いですが、氷河は氷でですので、水よりも、下の岩を深く削り取ります。氷河があると分かりませんが、氷が溶けると、山の上ではカールができ、山の中腹から裾野ではU字谷ができています。ロッキ−山脈の地層は、いたるところで氷河の侵食作用による地形が見られます。
 このアサバスカ氷河は、毎年少しずつ後退しています。20年ほど前に行った時と比べて、氷河の先端まで、歩いたような気がします。後退のスピードは、1922年(この年から観測)から1960年までの38年間に1105メートル後退し、平均すると毎年約29メートル後退していました。ところが、1960年から1992年の32年間に230メートル後退し、年平均で約7メートルの後退です。スピードは変化していますが、氷河が後退し続けているということは事実です。
 その原因は、地球温暖化と即断されることがよくあります。しかし、ことは非常に複雑です。例えば、アサバスカ氷河では、二酸化炭素の排出量が多くなる時期(1960年以降)に、後退のスピードが鈍っています。温暖化でも降雪量が多ければ、氷河の後退のスピードが鈍ったり、逆に延びたいるするかもしれません。あるいは、地形の変化で、氷河の流れる向きと量が変わったかもしれません。地球温暖化という安易な結論ではなく、本当の原因は何かが現在、地道に、詳しく調べれています。