地球の仕組み

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Essay ■ 3_195 核の水 3:核の水素
Letter■ 野外調査・技術の進歩
Words ■ 秋深し


(2021.10.14)
 シミュレーションで実物試料を用いて実験をし、できた実物を分析するいう方法は、客観的検証ができます。タイヤモンドアンビル、SPring-8、その場観測、岩石中の水素分析、いろいろな技術を駆使して、探求されています。


Essay■ 3_195 核の水 3:核の水素

 地球の核は、地震波と隕鉄(鉄隕石とも呼ばれています)から推定されています。隕鉄は、昔あった微惑星の核の破片だと考えられています。金属鉄とニッケルからできているので、地球の核も似た組成だと考えられます。鉄(密度は7.874)にニッケルが加わると、ニッケル(8.902)の方が密度が大きいた、その化合物の密度も大きくなります。ところが、地震波から推定される核の密度は、隕鉄や鉄より小さくなっていました。鉄と比べると、1割近く小さくなっています。核になんらかの軽い元素や成分を含んでいなければなりません。これは「核の密度欠損問題」と呼ばれています。その軽い元素が何かが未だに不明です。ケイ素(Si)やイオウ(S)などいろいろな候補がありましたが、最近では水素(H)が有力視されてきました。
 ここまで紹介してきたことは、実は次の新しい研究成果を紹介するための前提となるものでした。いよいよ、最新報告を紹介しましょう。
 イギリスの科学雑誌「Nature Communication」に、2021年5月11日に報告されました。東工大学地球生命研究所の田川翔さんと圦本さんらの共同研究者によるもので
 Experimental evidence for hydrogen incorporation into Earth's core
 (地球核への水素の取り込みの実験的証拠)
というタイトルでした。「実験的証拠」というのが、ダイヤモンドアンビルとSPring-8を用いた高温高圧実験での、その場観察によるもので、その結果から考察したものです。
 核とマントルを想定したもので、核に水素がどの程度取り込まれるかを調べたものです。ただし、実験では、金属鉄を溶かし、マントルもマグマの状態にしています。現在の地球とは異なった条件ですが、地球初期の条件を想定しためです。
 地球形成の初期には、大量の微惑星が衝突していたため、地表ではマグマの海、マグマオーシャンができたと考えられています。マグマオーシャンの内部では、溶けた金属鉄と岩石が溶融したマグマが、分離して混在していたという条件を考えています。溶けた鉄はマグマオーシャンの底にたまり、一定の量を越えると、固体のマントル物質の中を中心部に向かって落ちていきます。やがて中心で核になります。
 さて、マグマオーシャンの底には、溶けた金属鉄がたまります。マグマオーシャンの底は、温度が2800〜4300℃、圧力が30〜60万気圧の条件を想定しています。そこでの金属鉄とマグマとの間での水素のやり取り(分配といいます)を調べ、その比率(分配係数といいます)を実験で求めています。
 金属鉄とマグマの間で水素の分配係数を決めればいいのですが、金属鉄を常温常圧にすると、大半の水素が抜けていきます。マグマでは常温常圧の岩石にしても、水素は残っているのですが、水素の定量するのが非常に困難です。タイヤモンドアンビルで高温高圧にできるのは、非常に小さい試料(直径10μm程度)です。そのような微小部分での困難な分析が必要になります。このような困難さから、核の軽い成分が水素だと推定されていましたが、定量的に検証することができませんでした。
 マグマ中の水素の定量的測定で分配係数を求めことは、非常に困難です。それを克服するに、新たな装置「同位体顕微鏡システム」が用いられました。それは次回としましょう。


Letter■ 野外調査・技術の進歩 

・野外調査・
今週末に調査にでかけます。
道北なので、雪が心配ですが、
秋まで調査にいけなかったので、
その分を取りもどすように、
雪が降るまでにでかけようと考えています。
できれば、もう一度でかけたいのですが、
11月になると、いつ雪が降ってもおかしくありません。
できれば、近いうちにもう一度、
今度は道南に出かけようと考えていますが、
どうなるでしょうか。

・技術の進歩・
高圧を発生するには
面積を小さくしていくことになります。
その分、できる試料は小さいものになります。
大きな試料をえるためには、
装置を大型化することや
アンビルを硬いものにすることで対処されてきました。
アンビルの物性でかけられる圧力にも上限があります。
今の所、地球の核にまで達しました。
大きな試料をえるのはなかなか克服できな課題です。
試料が小さくでも、分析技術を向上することで、
小さい部分の分析の精度を上げる。
高温高圧実験でも、いろいろ工夫されてきました。


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