地球の仕組み

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Essay ■ 3_155 核の水晶 2:新しい内核
Letter■ 内部の暗さ・春へと
Words ■ 長い冬からやっと春です


(2017.04.20)
 今回紹介する核に関する報告は、2つあります。ひとつは今までの常識をくつがえしパラドクスを提示するもの、もうひとつがそのパラドクスを解く仮説です。1年ほどの間に重要な報告が2つもなされました。


Essay■ 3_155 核の水晶 2:新しい内核

 前回は、地球の核の概要を紹介しましました。地球の地下は地震波で調べられて、核は金属状態の鉄からできていていること、外側に液体、内部に固体の状態であること、さらに詳しく見ると、純粋な鉄ではなく地震波から推定される密度とは合わず、何か軽い成分が混じっていることでした。また、液体の外核が対流することで電気が流れ、磁気が発生することで地球の磁場ができていると考えられています。軽い成分が不明であるのと、対流の原因がよくわかっていませんでした。
 対流の原因に対しては、従来から「組成対流」が主流の考えでした。組成対流とは、鉄が固化(結晶化すること)が進むことで、残った液体の部分に軽い成分が増えることで、密度が小さくなり浮いていく(上昇流となる)ことで対流するという仮説です。内核は地質学の古地磁気の研究から、約42億年前から存在していたと考えられてきました。そして、約13億年前には磁場が強くなったことも知られています。
 ところがこの仮説には、都合の悪い報告が出されました。東京工業大の太田健二さんたちは、2016年6月のナイチャー誌に、
Experimental determination of the electrical resistivity of iron at Earth's core conditions
(地球の核の条件での鉄の電気伝導度の実験による決定)
というタイトルの論文を報告しました。高温高圧実験で核の電気伝導度を測定したところ、予想より3倍ほど高いことがわかったというものです。この報告が何を意味するかというと、核の形成年代として予想外の年代が出るということです。電気伝導度の値から内核の冷却速度を見積もると、内核の誕生は今から約7億年前という非常に若い可能性があることになりました。
 この報告の結果は、地球の磁場の形成で、地質学が出していた従来の結果に相反するものとなります。これは、「新しいコアのパラドックスouter」と呼ばれました。金属鉄の結晶化では、古い時代の地磁気は形成されないことになりますので、それに変わるメカニズムが必要になります。このパラドクスをどのように解決していくのかが、焦点となります。
 「新しいコアのパラドックスouter」を、新たな「組成対流」で解決しようという報告がありました。東京工業大学の廣瀬敬さんたちは、2017年3月のネイチャー誌に、
Crystallization of silicon dioxide and compositional evolution of the Earth's core
(地球の核の二酸化ケイ素の結晶化と組成進化)
という報告を出されました。
 核に含まれている軽い成分の候補として、従来からケイ素と酸素があったのですが、この報告ではそれが重要な役割を果たしたと考え、実験をしました。その結果、二酸化ケイ素がパラドクスを解く鍵になる、という考えが提示されました。その内容は次回にしましょう。


Letter■ 内部の暗さ・春へと 

・内部の暗さ・
地球の核は、謎に満ちた存在です。
現代の科学は太陽系惑星や天体の探査には、
多くの人材と予算を注ぎ込んでいます。
また、その成果もメディアでよく紹介されています。
海洋探査も、海洋資源の関連で力を入れられており
報道もそれなりにされています。
ところが、自分たちの足下の大地の内部に関しては、
まだまだ人材も資金も足りない気がします。
日本には世界に誇れるSpring8があり、
太田さんたちも、利用して実験し、成果を出されました。
もっとこのような施設や機材があればいいのですが。
地球内部の成果は、公表されても、内容が地味なので
なかなかメディアには出にくい話題のようです。
もっと地球内部の成果にも
「光」があたって欲しいものですね。

・春へと・
北海道は春めいてきたました。
里の雪は、一部の雪だまりを除いては
ほとんど溶けてしまいました。
そして春の花が一斉に芽吹きだしました。
ダイナミックで華やかな北国の春が、これから始まります。
雪国の人は、この時期を心待ちにしています。
大いに楽しみたいのですが、
日常がそれをなかなか許してくれません。
でも気持ちだけはウキウキとしたいものですね。


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