地球の仕組み

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Essay ■ 3_153 マントルの内部構造 6:現在の課題
Letter■ 総説・ライラック祭り
Words ■ リラ冷えの北海道


(2016.05.19)
 このシリーズでは、従来の考えと新しい考えを合わせて紹介するようにしてきました。新しい考えは最新の根拠に基づいて提案されています。それらはいずれも、実証されて研究者全員の合意を得ているわけではありませんので、別の考えもあります。シリーズの最後に、総合的な現状の課題を紹介しておきましょう。


Essay■ 3_153 マントルの内部構造 6:現在の課題

 地球深部のマントルの内部構造を中心に紹介してきました。その時、従来の考えと、新しい説もいくつか紹介してきました。どの説も一理ありましたが、それぞれに弱点もありそうです。まだまだ地球深部は、情報不足の状態のようです。
 東京工業大学の岩森光さんが、今年、マントルの現状を概観しています。「マントル対流と全地球ダイナミクス」という総説(その分野を総括するような論文)で、現状の課題として、以下の3つを挙げています。
・プレートの実体とその運動の原動力と応力分布
・マントル対流の大局的構造(2層対流か全マントル対流か)
・コアとマントルの相互作用
 一つ目は、今回のシリーズで紹介していないことを述べています。プレートが運動していることは、多数の傍証と実測がされているため検証されています。しかし、地殻からマントルのどこまで移動するプレートなか、海洋プレートではだいぶわかってきているのですが、列島や大陸地域では、必ずしも充分わかっていません。また、プレートがなぜ動いくのか(原動力)ということに関しては、有力な説はありますが、まだ実証はされていません。またプレート内で地域や状態にによって、どのような力かかっているのか(応力分布)も必ずしもよくわかっていません。
 2つ目は、プレートテクトニクスを取り込んだプルームテクトニクスと呼ばれるものがあります。これは今回紹介した、スーパーホットプルームを上昇流とし、コールドプルームを下降流とする大きな対流(全マントル対流)による熱運搬を考えるのがプルームテクトニクスです。プルームテクトニクスはまだ仮説であり、細部には議論の余地があります。その対案として、上部マントルと下部マントルがそれぞれ別の対流をしていると考える2層対流があります。そのどちらかは本当かは、まだ決着を見ていないということです。
 3つ目は、このエッセイでも紹介したのですが、核と、D"や下部マントルは熱のやり取りをしているのはいいのですが、熱以外になにがやり取りをしているのかということです。それを相互作用と呼んでいますが、どのようなことが起こっているのかが、まだわかっていないのです。
 科学者は、基本的に謙虚で慎重です。論文では結論として大胆な仮説を述べることがあります。その仮説が成立するための前提条件や適用の限定は、論文ではしつこく述べています。でも、大胆な仮説だけが一人歩きすることがよくあります。これは科学だけの話ではなく、いろいろなところで起こっている現象ですので、注意が必要となります。


Letter■ 総説・ライラック祭り 

・総説・
金森さんの総説はマントル対流と
そこから導かれる全地球の仕組み(ダイナミクス)
について、まとめられています。
22ページに及ぶ大部の総説です。
いろいろな専門的な議論がなされています。
なかなか参考になります。
総説とは、その分野に詳しい専門家が、
自分の考えより、現状のまとめや課題を整理している論文です。
ですから、総説は非常に役に立つ重要なものとなります。

・ライラック祭り・
北海道の春から初夏を告げる
ライラック祭りがはじまります。
なかなか行く機会がないのですが、
通勤の道にもライラックがあります。
淡い紫の可憐な花だ。
ライラックはリラとも呼ばれ、
北海道ではリラ冷えという言葉があります。
5月下旬でも、時々寒い日があります。
そんな日をリラ冷えといいます。


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