地球の仕組み

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Essay ■ 3_86 プルーム:マントル4
Letter■ 愛媛県西予・科学の進歩
Words ■ 気づいたら500号でした。ささやかな自己満足


(2010.04.01)
  マントル対流とは、プルームの上下運動がその原動力となっています。プルームは、定常的な流れではなく、大量の物質がある時期大規模に移動することが、実体でした。その運動に基づいて地球の営みが再構成されてきました。プルームとは何で、何を明らかにしてきたかを紹介しましょう。


Essay■ 3_86 プルーム:マントル4

 地震波トモグラフィーをみると、670kmあたりにプルームの滞留場所があります。670kmを境に、温度の低いマントル物質がマントルの底の核に向かってと沈んでいき、温かいマントル物質が地表に向かって上昇していることがわかってきました。
  温かいマントル物質の上昇流をホットプルーム(正式にはスーパーホットプルームと命名されています)と呼び、冷たいマントル物質が落ちていく下降流をコールドプルーム(こっちにはスーパーはつきません)と呼んでいます。
  コールドプルームは、670kmあたりに一定期間留まるのですが、やがては下に向かってマントルの中を落ちていきます。670kmあたりにある巨大なコールドプルームのもとを、メガリス(megalith)や滞留プレート(stagnant slab)と呼んでいます。
  メガリスは、数千万年ほどの670km付近に滞留すると、下部マントルに落ちていくと考えられています。このようなメガリスの落下をフラッシング(flushing、トレイの洗浄の様子)といいます。地震波トモグラフィーでマントルの底に見えていた低温域が、落下したメガリスに相当すると考えられています。
  巨大なメガリスが、マントルの底に落下するというフラッシングは、大量の物質が、マントルの底に向かって流れ込むことになります。マントルの物質収支を考えると、メガリスに相当する量のマントル物質が上昇しなければバランスがとれません。マントルの底で一番上昇しやすい部分は、一番密度の小さい物質、つまり温度の高いものが上昇することになります。これがホットプルームとなります。
  ホットプルームも、670kmあたりにいったん留まります。そこから小さなプルームとして枝分かれするようにして、周辺地域にマグマ活動を起こします。これがいろいろな地質現象を説明します。
  今まで、ハワイ諸島の火山列のように8000万年以上の長期に渡って活動する火山の起源、デカン高原やシベリア、アメリカのコロンビア台地などの大量の溶岩を流す火山の仕組みなど、よくわからなかったことがあったのですが、このようなホットプルームの巨大なマントル物質があれば、説明できます。また、海嶺がなぜそこにあるのかも、下にホットプルームがあるからだという必然的な理由があったことになりました。
  このようなプルームの上下運動が、マントル対流の実体であると考えられるようになりました。マントル対流は、一様な物質の流れでははなく、間欠的な活動になっていました。そのようなマントルの運動論の全体を、プルーム・テクトニクスと呼んでいます。
  プルーム・テクトニクスは、地表付近の造山運動やマグマ活動に間欠性があることを示唆しています。その活動周期は、数千万年におよぶ長期のものですが、そのような痕跡を地質学者は確かめつつあります。
  プルーム・テクトニクスは、地表部分での大地の営みを説明するプレート・テクトニクスを内在しています。そして、マントル全体の物質循環をも説明しています。しかし、670kmあたりで見つかった新事実によって、新たな展開を見せるかもしれません。それは次回としましょう。


Letter■ 愛媛県西予・科学の進歩 

・愛媛県西予・
私は、4月1日に北海道を発って
四国に向かっています。
ですから、このメールマガジンも
予約して配信しています。
このエッセイでも何度かアナウンスしていたのですが、
1年間、大学のサバティカ(研究休暇)をもらって
愛媛県西予市城川町地質博物館に所属することになります。
主には四国西部を中心とする地質調査、
そしてその成果を科学教育に活かす方法を考えることです。
しかし、一番の目的は「雑音」のない環境で
自分の研究を見つめ直すということです。
地質の哲学的な深まりを追求したいと思いながら、
なかなか深められずにいました。
いろいろの手がかりは得ていたのですが、
なかなか進まず欲求不満でもありました。
そこの部分を、この機会に深めていきたいと思っています。

・科学の進歩・
マントル対流のアイディアは、
大陸移動を最初に提唱したウェゲナー以来
その存在が考えられていました。
そしてやっと実体を見ることができるようになってきました。
それは、いわゆる「対流」とは、少々違っていました。
しかし、その「対流」は、戸惑いを誘いますが、
最終的にはより確かな実体を見ることになりました。
理論はあるとき完成するわけではなく、
新しい事実、特に理論に合わない事実が、
新しい理論へと導きます。
このような理論と事実の積み重なりが
科学の進歩なのでしょうね。


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