地球の仕組み

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Essay ■ 4_71 発見:日本のダイヤモンド2
Letter■ 産出頻度・北国の春
Words ■ 発行回数400回でも、浮かれず、粛々と、淡々と


(2008.05.01)
  沈み込み帯は、ダイヤモンド形成場として、それほどありえない場所ではありません。有利な点もいくつもあります。しかし、詳細な分析の努力と幸運なくしては、日本産の発見できなかったでしょう。


Essay■ 4_71 発見:日本のダイヤモンド2

 ダイヤモンドが発見された後になってから考えてみると、実は日本列島でもダイヤモンド形成のために、いくつかの好条件がありました。
  まず、地表付近には炭素(生物の有機物や殻やサンゴ礁の石灰岩などから由来)がたくさんあり、海底にも同様にたくさんあることです。沈み込み帯には、炭素がたくさん集まるところになります。炭素を含んだ岩石が、なんとか沈み込み、深くばなればダイヤモンドを形成する条件に達する可能性があります。
  もうひとつの好条件は、低温であるほど、ダイヤモンドはより低圧、つまり浅い条件で形成されることです。ダイヤモンドがよく見つかる大陸の条件では、150kmより深くないとダイヤモンドが形成されませんが、沈み込み帯のような冷たい条件では、100kmほどで形成されます。
  さらに、日本の火山岩の中には、マントルを構成していた岩石を捕獲してくるものが各地で見つかります。捕獲岩を伴うマグマの中には、かなり高速で上がってくるタイプもあります。そのようなマグマが地表に噴出すれば、火山岩となり、中に深部の岩石が捕獲されていることになります。それは、研究者が容易に手にできます。つまり手軽な研究材料になり、いつでも標本採取ができます。
  このような好条件を持っていたからこそ、ダイヤモンドが形成され、上昇し、発見されたのです。もちろんそこには、水上さんの多大な努力と、そして幸運なる偶然がありました。
  場所は詳しく示されていませんが、四国の中部の火山岩からダイヤモンドが発見されました。その火山は、1800万年前に噴火したものですが、位置が地質学的に少々変わった場所でした。日本の火山岩の中には、よくマントルから捕獲された岩石が見つかりますが、西南日本では、マントルの捕獲岩を伴うものは、中国山地や日本海側にある火山がほとんどです。しかし、今回見つかったのは、もっとも沈み込み帯に近い四国でした。このような岩石は四国では他の地域にも見つかっており、もしかするとそちらでも、ダイヤモンドが見つかるかもしれません。
  ダイヤモンドが発見された火山岩は、玄武岩の仲間なのですが、少々変わっていて、ランプロファイヤーとよばれるタイプのものでした。ランプロファイヤーは、変わった性質の火山岩の仲間です。貫入岩として日本列島でも各地で小規模なものが見つかっています。大陸地域でダイヤモンドを伴う火山岩(キンバーライトやランプロアイトと呼ばれる)に似た性質のマグマで、ガスの成分が多く、深部から高速で上昇してきたと考えられています。つまり、ダイヤモンドを捕獲してもグラファイトになる前に、地表にたどり着ける可能性があるのです。
  水上さんは、火山岩のもとのマグマができた条件を探るために、捕獲岩を詳しく調べて割り出そうとされていました。その時目をつけたのが、捕獲岩を構成する結晶(輝石)の中に含まれている小さな包有物(インクルージョンと呼ばれています)でした。包有物のうち、液体や気体の状態になっている流体包有物に着目されました。
  流体包有物を特殊な方法で調べていました。その方法はラマン分光と呼ばれるものでした。物質に光が当ると、散乱した光の中に、当てた光とは違った成分(波長)が含まれます。発見者にちなんでラマン効果と呼ばれます。散乱された光を詳しく調べると、物質の分子や結晶の状態を知ることができます。レーザーを当てて、物質の同定に用いるのをラマン分光法とよんでいます。
  ラマン分光法で流体包有物の中身を調べようと、水上さんはしていました。基準となる物質を選んでいるときに、ダイヤモンドのピークが見つかりました。それは、2007年の初めの頃だそうです。この時用いた装置の分析能力(空間分解能と呼びます)は、「直径1ミクロンメートル×深度2ミクロンメートル」という微小なものでした。見つかったダイヤモンドは、顕微鏡でも見ることのできない1ミクロンメートルほどでした。
  では、なぜ日本列島の地下でダイヤモンドが形成され、地表で発見されたのでしょうか。水上さんの仮説の紹介は、次回としましょう。


Letter■ 産出頻度・北国の春

・産出頻度・
水上さんの報告をみていると、非常に慎重です。
日本鉱物学科でも、真偽を確認するために、
「日本産ダイアモンドについての緊急討論会」
が2007年9月23日に開催されています。
岩石を磨く時に、ダイヤモンドの粉を使います。
それの混入がなかったかのチェックが、重要となるはずですが、
それは充分検討されているはずです。
ラマン分光装置の分解能力が深度方向に広がっていることが重要です。
また、共存している相からも包有物の中だと考えられています。
私は水上さんと直接話をしたわけではないので、
どの程度の頻度でダイヤモンドが見つかったのか知りません。
他の捕獲岩の試料の、同じ鉱物から発見できれば、
ダイヤモンドが普遍的に存在することを確定できるはずです。
そして、他の地域からも発見の可能性が高くなってきます。

・北国の春・
いよいよゴールデンウィークになります。
今年は、4連休になります。
北海道は例年より早い桜の季節を迎えています。
北海道の人が一番待ち望んで、
そして楽しみにしている季節でもあります。
ついついどこかに出かけたくなります。
石狩平野から眺められる、高い山並みにはまだ残雪が残っています。
スキーの好きな人は、今年最後のスキーを、
山登りのを待ちわびている人は、残雪の春山を、
花が好きな人は野山の散策に、
酒好きの人はいよいよ花見の季節の到来です。
我が家は、ニセコに春を火山を見に出かけます。
さて、山の様子はどうでしょうか。
まだ、山越えの道は通行止めでしょうか。
それが気になるところです。

 


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