地球の仕組み

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Essay ■ 3_52 コマチアイト:思い出の石ころ1
Letter■ 思い出・新しいコマチアイト
Words ■ 地球の歴史と思い出


(2007.02.08)
  思い出の石ころシリーズの第一回目はコマチアイトという石です。コマチアイトにはどのような思い出と意味があるのでしょうか。


Essay 3_52 コマチアイト:思い出の石ころ1 

 地球上には、色々な石があります。石に興味のない人にとっては、単に路傍の石に過ぎません。でも、石の専門家でなくても、あるいは銘石、水石や盆石が好きな人でなくても、心に残る石ころを持っている人もいると思います。
  そんな石ころで、地質学者として興味を持つと、どのようなことを見て、どのようなことを調べていき、どのようなことを考えていくのでしょうか。そんな私の心に残る石ころを紹介していこうと考えています。
  最初に紹介するのは、現在私の研究室のガラス引き戸のロッカーの中にある黒っぽい石です。この石は恩師の遺品です。今エッセイを書くために、久しぶりに取り出し、眺めています。
  この石は、半面は採取したままの状態で風化して黄褐色になっているところや、ハンマーで叩いた割れ目なども残っています。後の半面はきれいに磨かれています。そしてこの石は、半分に切るときか磨いている途中に割れたらしく、接着剤で固めてあります。そして石のある面に、サンプル番号と日付、とった場所が書かれています。
  この石の特徴は、そのつくりにあります。数cmの長さの針状の結晶が放射状にたくさん集まっています。そのつくりは、スピニフェクス組織と呼ばれています。スピニフェクスとは、オーストラリアの乾燥地に生えている鋭い針状の葉をもつ草のことです。その草のようなつくりをもつことが特徴です。
  スピニフェクス組織は風化面でも見ることができますが、磨いた面ではよりよく見えます。この石と同じ種類のものは、南アフリカ共和国バーバトン山地の太古代(38億〜25億年前)の露頭から最初に見つかりました。バーバトン山地の南側を流れるコマティ川にちなんで、コマチアイトと呼ばれています。英語ではkomatiiteと書きます。
  コマチアイトは、南アフリカ共和国以外でも、カナダ、オーストラリア、ジンバブエなどでも見つかっていますが、残念ながら日本では見つかっていません。なぜなら、コマチアイトは、太古代から原生代(25億年前〜5.6億年前)にしかできなかったもので、日本にはそんな古い岩石がほとんどないからです。
  コマチアイトは、地球の歴史を考える上で非常に重要な意味を持つと考えられています。
  コマチアイトは溶岩が地表に噴出して固まった火山岩です。その化学成分の特徴として、酸化マグネシウム(MgO)を非常にたくさん含んでいることがあげられます。コマチアイトのMgOの含有量は、重量で18%以上あり、マグマからできた火成岩は、特殊な濃集作用の起こっていないものは、10%以下しかありません。これは、コマチアイトがカンラン石を非常にたくさん含んでいるためです。スピニフェクスもカンラン石がマグマが急に冷えたためにできたつくりです。
  このようなMgOの多いマグマは、非常に高温(1650℃以上)の条件で形成されます。これは現在のマグマのできる温度よりかなり高いものです。また、地表近くまでマグマが上がってくると、冷却にともなってカンラン石ができてマグマから取り除かれ、MgOの濃度は下がっていきます。しかし、コマチアイトは溶岩として地表に流れていいます。これは、昔の地球内部が今よりももっと温度が高かったためだと考えらています。コマチアイトのスピニフェクスにはそのような意味があったのです。


Letter 思い出・新しいコマチアイト

・思い出・
今回から月に一度程度の頻度で、石シリーズをお送りしようと考えています。
私が出会った石ころで、思い出深いものや
興味を持って調べてきたものなどを紹介していこうと思います。
このコマチアイトは、私の恩師である
田崎耕市先生の形見としていただいたものです。
私は1982年8月に田崎先生と
この岩石の産地のカナダに一緒に行き、この標本を採ってきたのです。
私の標本は転々と移動している間になくなってしまったのですが、
田崎先生はこのコマチアイトだけは、
大切に自宅に保管され、飾られていました。
お葬式で自宅に行ったとき、飾られていたこの石を見て、
私は非常に懐かしく眺めていました。
すると奥さんがこの石と何冊かの本を持っていくようにいわれました。
この石は、私とって標本以上に意味のある非常に大切な石となりました。
標本メモには
A2-3, Munro Town, Komatiite, Col. Taz. 1982.8
と書かれています。
そのメモは、私にとって重要な意味のある言葉でもあります。

・新しいコマチアイト・
顕生代にできたコマチアイトも、最近では見つかっています。
例えば、オマーンのオフィオライト(約1億年前)とよばれる岩石群の中や
コロンビアのゴルゴナ島(約9000万年前)などからも見つかっています。
しかし、新しい時代のコマチアイトは、
古い時代のものとは違ったメカニズム、
特殊な条件によってできたと考えられています。
コマチアイトには、地球の不思議が詰まっています。


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