生命の歴史
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Essay■ 2_212 生命誕生の条件 7:困難な条件
Letter■ 野外調査の終了・腰痛
Words ■ 北海道は寒くなってきた 


(2023.11.23)
 後期重爆撃によって揮発成分や水が供給され、大気と海、そして陸ができました。生命誕生の材料や環境が整ってきました。しかし、それだけでは、生命の化学合成には進めませんでした。満たすべき条件が他にも必要でした。


Essay■ 2_212 生命誕生の条件 7:困難な条件

 後期重爆撃によって、小惑星帯より外側にあった天体から、地球に水や揮発性成分が供給されました。その結果、生命に必要な材料がそろって、ハビタブルトリニティが成立しました。そこから、生命の誕生に向けて、一気に進むはずですが、なかなかそうはいきません。
 まだ課題がありました。生命合成のためのエネルギー源と化学合成に必要な条件が多様である点です。
 エネルギー源についてですが、生命合成には大きなエネルギーが必要です。ここで用いたエネルギーとは、厳密にはエネルギー密度(W/cm^2)を意味します。冥王代で想定される太陽光、大きなエネルギーをもった紫外線でも足りませんでした。冥王代当時は、現在よりも強かったと考えられる放電や宇宙線でも足りそうもありませんでした。
 また、生命誕生の場として、これまで定説となっていた中央海嶺での熱水噴出孔でも、エネルギーは足りません。もちろん、現在の太陽エネルギーや放電、宇宙線でも、まったく不足しています。
 「ユリー・ミラーの実験」として有名な、最初に無機物から有機物を合成した実験では、初期の海洋を模した沸騰した水、雷を模した放電などをエネルギーとして用いました。その時、供給されていたエネルギーは、非常に大きなものでした。その値は、たまたまでしょうが、生命合成に必要なエネルギーの臨界値を、かろうじて超える値(10^-2〜10^-1 W/cm^2)であったようです。どのようなエネルギー源を考えればいいかが問題となります。
 火山活動であれば、高温のマグマや高温の熱水もあり、エネルギーは足りそうです。しかし、そのとき注意すべき点があります。大きなエネルギーを与えたとしても、合成場の温度が100℃を超えるような状態になっていると、形成された有機物は分解されてしまいます。有機物を、温度を上げることなく合成するか、もしくは温度が高い場で合成されても、合成後すみやかに高温環境から出ていかなければなりません。火山活動では合成物が速やかに移動するメカニズムを組み込む必要があります。
 化学合成に必要な条件が多様である点につても、課題があることがわかってきました。合成の流れは、無機物から有機物前駆体、生命の構成分子、機能性高分子、そしてそれらが集まってひとつの生命となっていきます。それぞれの部分で、さまざまな化学反応が必要になりますが、その条件が非常に多様になものになります。
 それらを整理してまとめているある研究では、還元気相、アルカリ性 pH、凍結温度、淡水、乾燥/乾燥-湿性サイクル、高エネルギー反応との結合、水中での加熱-冷却サイクル、生命の構成要素と反応性栄養素の地球外から流入が必要だとしています。別の研究では、エネルギー源、リンやカリウムなどの栄養素の供給、生命の主要構成元素(C、H、O、N)の供給、濃縮還元ガス、乾湿循環、ナトリウムの乏しい水、きれいな湖沼環境、多様化した地表環境、循環性などにまとめられています。
 材料物質が揃っているという前提で、多様で複雑な合成条件が、適切な順番に働かなければなりません。通常の地球環境、あるいは想定される冥王代の環境で、達成できるかどうか心配になるほど、多様な条件と複雑なプロセスが必要になりそうです。多様な合成条件もエネルギーと同様に困難な課題となりそうです。
 どんなに困難な条件であったとしても、地球では達成されたため、生命が誕生して、存在していることになります。このような困難を、どうして解決していくのでしょうか。次回としましょう。


Letter■ 野外調査の終了・腰痛

・野外調査の終了・
北海道は、晴れと曇りが繰り返される
はっきりしない天気が続いています。
野外調査は終わりました。
前回の野外調査は、悪天続きで
吹雪や積雪で十分にできませんでした。
しかし、今シーズンの野外調査は終了しました。
道内各地の調査は、
来年度に再度挑戦したいと思っています。

・腰痛・
腰痛が再発しています。
発生する原因は不明です。
サバティカルの間は、プールで泳いでいました。
しかし、帰札してからは、
通勤の7kmほどの歩行だけはしていますが、
しっかり筋肉を使う運動はしていません。
筋肉衰えてきているのかもしれません。
一度、整形外科にで見てもらおうと考えています。
しょっちゅう腰痛が発生するとなると
少々心配です。