生命の歴史
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Essay■ 2_195 LUCA 4:細菌ドメイン
Letter■ Mathodのページ・培養困難
Words ■ 北海道らしい夏になってきました 


(2021.07.29)
 生物には、未発見の種が多数いることはよく知られています。生物学者も知らないような、分類も不明な生物が、大量にいることが、数年前に見つかりました。そんな生物種の発見の物語です。


Essay■ 2_195 LUCA 4:細菌ドメイン

 前回、天然の原子炉オクロの紹介をしました。半減期の長い放射性元素は、過去ほど多かったことになるので、ウランが濃集するような堆積場があれば、天然の原子炉、あるいは放射崩壊に伴う放射線や崩壊熱が多いところも、各地にあったと考えられます。そのような場を生命誕生の場と考えようとする仮説が最近出されました。
 この仮説は、不思議な生物のグループが多数存在していた、という報告がもとになっています。まずは、その報告からみていきましょう。2015年にBrown博士らが、Nature誌に発表した論文でした。
Unusual biology across a group comprising more than 15% of domain Bacteria
(細菌ドメインの15%以上を構成するひとつのグループの特異な生物学)
というタイトルでした。
 このタイトルの「ドメイン」とは、界より上の生物の分類の階層になります。かつて、モネラ(原核生物)界、原生生物界、植物界、菌界、動物界の「5界」が、分類のもっとも上位の区分でした。ところが、モネラ界の中で、古細菌の特徴が、他とはかけ離れていることがわかり、別の分類グループにする必要がでてきました。そのために、古細菌ドメインと細菌ドメインが区分されました。ところが両ドメインの違いは、真核生物内の4つの界より大きいもので、ひとつにまとめて、最上の分類では真核生物ドメインに一括されました。
 その細菌ドメインの中で新たな分類グループ(門)が見つかりました。全く未知の生物群があり、それらは共通して特徴をもっていました。その研究では、メタゲノミクスという方法が用いられました。
 ひとつの生物のゲノムを解析するには、その生物だけを増やし、つまり培養して一定量のゲノムを集めないと解析できません。しかし、混在(ミックス)した状態でゲノムのDNAを抽出して、そのまま分析してしまう方法がメタゲノミクスです。この方法では、個々の生物のゲノムを区別しては解析できませんが、グループ全体の概要を掴むことができます。なんといっても、培養できない生物の特徴を知ることができます。
 Brown博士らは、アメリカのコロラド川の近くの帯水層からの地下水を採取して、細菌を調べました。膨大な細菌が混在したゲノムを、メタゲノミクスとして分析をした結果、細菌ドメインの内の区分で、その下の階層として門(Phyla)があるのです、35門以上でゲノム解析をしました。そのうち8個で完全なゲノム解析をこない、789個でゲノムの概要の解読をしました。
 これらの膨大なデータを検討した結果、ひとつの特徴的なグループが見いだされました。このグループは、共通した進化をしてきたと考えられ、今回分析された全細菌のうち、15%以上が属することになりました。そのグループはCPR(Candidate Phyla Radiation)と呼ばれました。
 CPRとは、「門の候補となる放散群」とでも訳すのでしょうか。このCPRは、その後ももっとたくさん発見されており、これまで知られている細菌の種類の全体に匹敵するほどの量になのではないかと推測されています。
 今回は、CPRの発見の話でしたが、次回は、このCPRと生物進化の関係を考えていきます。


Letter■ Mathodのページ・培養困難

・Mathodのページ・
Brown博士らの論文は本文が4ページです。
NatureのLetterですが、Letterの論文としては長いくらいです。
しかし、付録として、研究のMathod(方法)が
4ページにわたって小さな文字が書かれています。
また参考資料が9ページ分もついています。
デジタルですので、このような方法がとれるのでしょう。
客観性を担保し、反論ができない、
つまり結果が正しいとみなせるような情報が提示されました。
これはかなりインパクのある論文となりました。

・培養困難・
Radiationには、放射線という意味もあるのですが、
生物学では「放散」という意味もあります。
このシリーズでは、放射線に関して述べているので
混乱を招くかもしれませんが、
ここでは、まだ分類が未確定なグループとなります。
生物の分類上の位置の確定は、
培養して、ゲノムを集めるという作業が必要になります。
これが、なかなか難しいものです。
詳細は次回以降に説明します。