生命の歴史
表紙に戻る

Essay■ 2_182 真核生物の誕生 7:進化モデル
Letter■ 緊急事態措置・学ぶチャンスに
Words ■ 興味をもったことに集中すれば時間もすぐに過ぎる


(2020.04.23)
 古細菌から真核生物への進化の鍵を、ロキアーキオータが握っているようです。ロキアーキオータの培養が成功した結果、実態が明らかになってきました。古細菌から真核生物への進化の道筋が見えてきました。


Essay■ 2_182 真核生物の誕生 7:進化モデル

 井町さんたちが培養に成功したロキアーキオータは、MK-D1株と呼ばれていました。では、MK-D1株とは、どんな生物なのでしょうか。培養に成功したために、DNAや形態の特徴などが詳しくわかってきました。
 MK-D1株は、酸素のない環境でしか培養できませんでした。ですから、嫌気性の生物となります。細胞を電子顕微鏡で観察をすると、直径550nmという非常に小さい球形でした。他の古細菌と同様に、単純な細胞であることもわかってきました。ただ、細胞の外に向かって、特異な触手のような長い突起を伸ばしたり、多くの小胞を放出することがあるのもわかりました。
 DNAの解析も進められました。MK-D1株には、真核生物に特有のゲノム(アクチンやユビキチンなどを作るための遺伝子)をいくつも持っていることがわかりました。分子系統樹からみると、原核生物としては、真核生物にもっとも近縁であることもわかってきました。
 MK-D1株と呼ばれるロキアーキオータは、無酸素の環境でしか生きられず、古細菌として単純な細胞内の構造しかもたない生物でありながら、真核生物に似た特徴もいくつも持っています。形態的にも不思議な特徴をもっていました。
 不思議な形態は、増殖が終わったときに現れます。長い触手のような突起を外に伸ばし、小胞を外に出すという、活動をします。これは、他の古細菌やバクテリアではみられない特徴です。では、なんのために、このような不思議な活動をするのでしょうか。
 MK-D1株は、形態の特徴や、古細菌でありながら真核生物のDNAに似ていることなどから、古細菌から真核生物への進化の道筋が推定されています。その進化の仮説は、前に紹介したE3モデル(Entangle-Engulf-Endogenize model)と呼ばれるものでした。その仮説をアニメーションにしたものが公開されています。この動画には、発見から培養の様子もまとめられています。興味ある方は、御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=18&v=p1Zr4t6Vmtg&feature=emb_logo
 このアニメーションでは、ロキアーキオータの祖先(MK-D1祖先と呼びましょう)は、次のような進化シナリオを紹介します。
 酸素のない時代から、酸素の多い時代になってくると、MK-D1祖先は酸素を利用できるミトコンドリアに触手を伸ばしていきます。MK-D1祖先は栄養をミトコンドリアに供給します。ミトコンドリアは酸素を利用して水素を排出します。硫黄還元菌はその水素を利用してアミノ酸を合成します。そのアミノ酸をMK-D1祖先が利用していきます。ばらばらであると効率が悪いので、MK-D1祖先が放出した小胞がミトコンドリアに付着して、からめてくっつきます(Entangle)。MK-D1祖先から細胞膜が広がり、飲み込み(Engulf)、やがて細胞内に融合していきます(Endogenize)。
 井町さんたちは、「単純な細胞構造を持つ無酸素環境下で生育するアーキア」から「複雑な細胞構造を持ち酸素で呼吸する我々真核生物」へとなっていくという新しい進化のE3モデルを提案しました。
 今後、MK-D1株のより詳しい研究が期待されます。


Letter■ 緊急事態措置・学ぶチャンスに

・緊急事態措置・
日本全土で緊急事態宣言がでました。
北海道も緊急事態措置の対象となりました。
大学でも、健康診断などの一部の行われる予定の行事も
すべて中止になりました。
職員もかなりの割合が在宅勤務となりました。
教員も可能な限り自宅待機となっています。
ただし、私は大学の研究室にこもっています。
会議は仕方がありませんが、
あとは極力、電話やメールですませています。

・学ぶチャンスに・
緊急事態で大学の講義が中止、延期
校務が最小限になっているため、
研究に専念しています。
いいことか悪いことかはわかりませんが、
研究が進みます。
この時期をチャンスに研究や教養、趣味など
今まで時間がなくて、できなかったことに
集中するのがいいのではないでしょうか。
私は研究に専念しながら数学の学び直しをしています。