生命の歴史
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Essay■ 2_170 単細胞から多細胞へ 4:捕食圧
Letter■ 新学期・知床
Words ■ 北海道は春めいたり、雪が降ったり、季節の変わり目です


(2019.04.11)
 ミドリムシの多細胞化は、実験室では簡単に起こるようです。そんなに簡単に起こるという結果があると、そこから新たな疑問も湧いてきます。そんな結果と疑問の連鎖が、新しい科学の芽となるのでしょう。


Essay■ 2_170 単細胞から多細胞へ 4:捕食圧

 自然界でもミドリムシは、世代交代を繰り返しています。でも、多細胞化がそうそう起っているように見えません。同じミドリムシを用いた実験では、なぜ、多細胞化が起こったのでしょうか。それは、多細胞化を促したような条件を設定したからです。
 その条件とは、多数のミドリムシのいる状態に、一匹だけ、ミドリムシを捕食するヨツヒメゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)が入れられていました。5つのグールプで実験したところ、2つのグループで多細胞化が起こったのです。つまり、ミドリムシに捕食という自然界でも当たり前に起こる生存のためのストレスを加えることことによって、多細胞化が簡単に起こったということです。
 この結果は、いくつか重要な内容と、そして疑問点も示しています。
 まず、多細胞化は、少なくとも捕食圧がかかった純粋培養の状態であれば、簡単に起こることは示されました。論文のタイトル
De novo origins of multicellularity in response to predation
(捕食に反応した多細胞化の”新たな”起源)
となっていますが、「捕食」が重要であることを述べています。そして、多細胞生物の細胞数もサイズも異なっているということでした。多細胞化は、捕食者に対して身を守る手段となりえると主張しています。捕食圧が単細胞から多細胞化には必然性がありそうです。
 論文では、50週(1年程度)の短期間に多細胞化が起こってしまうことも同時に示しています。すると、こんなに簡単に起こる多細胞化が、なぜ、自然界で起こっていないのだろうか、という疑問です。限定された条件とはいえ捕食圧がかかった環境など、広い地球であれば、なかりの頻度で多細胞化がおこっていいはずです。なぜ、自然界では起こらないのでしょうか。人工の環境だから、多細胞化しても保存されていくのでしょうか。もしそうなら、自然界では、何が多細胞化を阻害しているのでしょうか、あるいは捕食者も進化して、多細胞生物をも捕食できるようになり、多細胞生物の進化を阻止するのでしょうか。
 または、自然界でも多細胞化はしょっちゅう起こっているのだが、知られていないだけなのでしょうか。もしそうだとすると、今でも新しい多細胞生物が生まれていることを示しています。それは、単に新種生物として、やがては見つかるのでしょうか。
 多細胞化のような大きな進化でも、条件さえ整えば、短時間で起こってしまうのでしょうか。すると多細胞化に続く、「カンブリアの大爆発」も、それほと進化上、奇異なことにならないのかもしれません。すると、次なる疑問として、なぜカンブリア紀にだけ、爆発的なのでしょうか。
 多細胞化のためのストレスは、ヨツヒメゾウリムシの捕食圧だけでしょうか。他の種類の捕食者ではどうでしょうか。あるいは他のストレス、たとえは、温度、食料、化学成分、水圧、光など生存を脅かすようなストレスにはどう対応するのでしょうか。多細胞化以外の他の進化も生まれないでしょうか。いろいろ想像したくなります。
 ひとつの大きな発見があると、次々と疑問が湧いてきます。まあ、これが科学の面白さでもあるのですが。


Letter■ 新学期・知床

・新学期・
大学の新学期が始まりました。
1年生の担任もしています。
今年の1年生のゼミナールは
今までのものとは、全く違ったものになります。
アクティブラーニングを全面的に進めていくゼミになります。
新しい試みをいろいろするつもりですが、
うまくいくかどうか、やってみるしかないでしょうね。
ただ、精一杯努力や準備をしていくしかないのでしょうね。

・知床・
今年の野外調査の地は、昨年に続いて
北海道に半分の労力をかける予定です。
北海道に戻ってきて18年目ですので、各地を巡っているのですが、
実はまだ、いっていないところが、あちこちあります。
いつでも行けると思っていたり、
じっくり時間かけて見て周りたいなどと思っていると
となかなか行けないものです。
その一つが知床です。
雪が深くでなかなか峠道が開通しないのですが、
今年、行く予定を立てています。
まだ、時期は正確には決めていないのですが、
初夏に行く予定です。