生命の歴史
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Essay■ 2_169 単細胞から多細胞へ 3:ミドリムシ
Letter■ De novo・新年号
Words ■ 新年度がスタートしました


(2019.04.04)
 ミドリムシは動物と植物の両方の性質もっています。多細胞化のための実験は、ミドリムシを用いておこなわれました。実験の結果、進化は、かなり短い期間で、起こっていることがわかりました。


Essay■ 2_169 単細胞から多細胞へ 3:ミドリムシ

 多細胞化への進化は、動物ではひとつの系統で、植物ではいくつかの系統で起こっていました。多細胞化は動物では難しい進化だったようですが、植物には比較的起こりやすそうでした。でも、多細胞化は生物の生存競争には有利だったようで、その後は大きく繁栄しています。
 では、体細胞化への期間はどれくらいでしょうか。そんな疑問に対する研究結果がだされました。イギリスのNatureのScience Reportに2019年2月20日で報告されました。
De novo origins of multicellularity in response to predation
(捕食に反応した多細胞化の”新たな”起源)
というタイトルです。この報告によると、50週で多細胞化が起こったことが、実験で確かめられました。あまりの速さに、かなり驚かされました。
 この研究では、多細胞化の様子を動画として撮影されていて、進化の瞬間をみることができます。実験に使われたのは、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)という鞭毛虫の仲間で、単細胞生物です。ミドリムシは、不思議な生物です。鞭毛で運動する動物の性質をもっていますが、葉緑素をもって光合成もしています。動物と植物の両方の性質をもっています。鞭毛虫は襟鞭毛虫にも近く、多細胞化が起こりやすい性質をもっているようです。
 実験は5つのグループでおこなわれました。そのうち2つのグループで、多細胞化を起こしました。ですから多細胞化は偶然の現象ではなく、ある程度必然性がありそうです。
 多細胞化は、50週で1年に満たない短い間で起こりました。生物の進化の歴史からすると、非常に速いものとなります。このような短期間で進化できたのは、その間に750回ほどの多数の世代交代をしているためでしょう。コナミドリムシのような単細胞生物では、細胞分裂で世代交代が起こり、その期間が短いので、試行錯誤自体は、750回繰り返されていたことになります。
 しかし、考えたらミドリムシの世代交代は、長い歴史の中で、いつでも、どこでも繰り返し起こってきました。いくら実験で条件を整えたとしても、突然、多細胞化が起こるのは、なかなか難しいことに思えます。実はこの実験では、ある工夫がなされていました。それが多細胞化を促したようです。この報告もその原因を探ることが目的でした。詳細は、次回にしましょう。


Letter■ De novo・新年号

・De novo・
論文のタイトルのDe novoは、
ラテン語で「新たに」「再び」を意味する言葉です。
英語のラテン語が混在するのは少々違和感があります。
De novoは、生化学においては、
反応名や経路名などに用いられているので
違和感はないようです。

・新年号・
新年度がスタートしました。
大学は授業時間の確保のために、
4月も2週目から講義がスタートします。
最初の1週間で、大学では新入生の対応でバタバタしています。
そこに在学生の行事も加わります。
非常に忙しくなります。
ですから、このエッセイは3月末に発行しています。
4月になれば新年号で大騒ぎとなっていることでしょう。
みんな公文書で年号の変化はわずらしいので
西暦で統一して欲しいと思っているでしょうが、
バタバタが起こっています。
まあ、年号が変わっても、
このエッセイには変化はありませんが。