生命の歴史
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Essay■ 2_142 三畳紀の大絶滅 5:衝突クレーター
Letter■ 若い頃の苦労・パンサラッサ
Words ■ 若い頃は苦労した方がいいと今さらなが思う


(2016.11.24)
 三畳紀の層状チャートから衝突の証拠が見つかりました。その衝突の記録が陸地のどこにあるかを調べると、似た時代にできたいくつかのクレーターが見つかります。これはいったい何を意味するでしょうか。


Essay■ 2_142 三畳紀の大絶滅 5:衝突クレーター

 前回まで、層状チャートから見つかった宇宙塵や化学組成の特徴から、隕石の衝突事件が推定できることを紹介しました。三畳紀後半は、繰り返し生物大量絶滅イベントが起こった時代として知られています。その原因のひとつが、この発見で説明できるかもしれません。
 津久井と坂祝で隕石の証拠を発見した佐藤さんらはその成果を2010年から2013年にかけて報告してきました。それら一連の成果をもとに紹介していきましょう。
 これまでのエッセイで、従来の年代の見積もりによれば、時代がずれているようだと紹介しました。しかし、佐藤さんらは、両地域のチャート中の微化石を比較して、津久井と坂祝の化石は一致しているとしました。もし佐藤さんらの指摘のように時代的なズレがないとしたら、同じ衝突の証拠を見ていることになります。もし時代がズレていたら、2度の衝突が起こっていたことになりす。
 小さな隕石の落下は、かなり頻繁に起こっています。宇宙塵も定常的に降ってきていることが明らかになっています。しかし、佐藤さんらは、層状チャートの間にある粘土層から、衝突によってできた特異な鉱物の発見などもされており、化学組成だけでなく、大きな衝突があったことが明らかにされていきました。三畳紀後期の衝突は、層状チャートの形成場あるいは形成メカニズムを考えても、地球全体に及ぶような大きなものだったと考えられます。
 では、その衝突は、いったいどこで起こった、どのようなものだったのでしょうか。それを探っていきましょう。
 衝突の証拠は、直接知るには、その時代にできたクレーターを探すことです。もちろんそれは陸地にできたものしか残っていなのですが、それが見つかれば有力な証拠となります。三畳紀後期には、いくつかの大きなクレータが見つかっています。カナダのマニゴーガン・クレーター(直径100km、2億1400±100万年前)、フランスのロチャエチョウア・クレーター(直径25km、2億1400±800万年前)、カナダのセイント・マーティン・クレーター(直径40km、2億1900±320万年前)などがあります。時代が近いため、連続的に衝突が起こったことになります。その原因はこの際おいておいて、このようないくつかクレーターが存在することが重要です。
 クレーターは衝突イベントの証拠でもありますから、層状チャート中の三畳紀後期の衝突の証拠に、どれが対応するを突き止める必要があります。それぞれに対応する衝突の証拠が、いくつかの別の層準(時代)から見つかっても不思議ではありません。今後、年代の対応を厳密にしていき、衝突がどの時代、どの層準に当たるのかを明らかにしていく必要があります。
 佐藤さんらの報告でのさらなる新知見は、衝突した隕石の大きさが推定されている点です。その方法は、隕石由来の成分が地球の表層に撒き散らされたとした時、ある箇所の地層の成分から、全地球にばらまかれたとして、成分の総量を割り出します。隕石の種類を限定して、既存の隕石の成分比と比較すれば、隕石のサイズが推定できるという方法です。
 K-Pg境界で用いられた成分はイリジウム(Ir)でしただ、佐藤さんたちは、オスミウム(Os)量から、隕石の大きさを推定しました。ただし、海中でのオスニウムの堆積なので、溶けてしまった量などを補正して正確を期しています。その結果、隕石の直径は3.3〜7.8kmだったと推定しました。この推定サイズは、K-Pg境界の隕石のサイズ(直径6.6〜14km)に次ぐほどの、大きなものだとなります。では、なぜ絶滅と対応しないでしょうか。なかなか難しい謎ですね。


Letter■ 若い頃の苦労・パンサラッサ

・若い頃の苦労・
佐藤さんは、大学院生のころに
層状チャートを研究されたのですが
大変な苦労をして、化学分析をしてきました。
論文として成果を投稿しましたが、
受理されるまで再度分析をしたりしています。
そんな苦労の末の成果を、
今回利用させていだきました。
彼女が大きな成果を上げるにあたっての
苦労を書いたエッセイもあります。
http://www.geosociety.jp/faq/content0477.html
はじめてのことは何事も大変ですが、
それが二度目、三度目となると
馴れてくることも書かれていました。
状況は違いますが、私も若い頃のことを思い出しました。

・パンサラッサ・
古生代ペルム紀はパンゲアというひとつの超大陸と
ひとつのパンサラッサという超海洋という
単純な陸海の配置にあった時代です。
海は広く深海も単調だったかもしれません。
三畳紀末にはペルム紀にできた
超大陸パンゲアが分裂をはじめます。
パンサラッサのような巨大な海の深海底で
層状チャートはできたのです。
そこには陸地に落ちた隕石の
衝突の証拠があったのです。