生命の歴史
表紙に戻る


Essay■ 2_95 10億年に1度:K-Pg 3
Letter■ 情報の変質・台風
Words ■ 台風シーズンに突入


(2011.09.08)
  精度の悪い情報からは、精度の悪い見積しかでてきません。精度が悪くても情報が欲しい時もあります。そんな時は、精度の悪さを理解して情報を受け止める必要があります。数値の一人歩きは危険です。


Essay■ 2_95 10億年に1度:K-Pg 3

 前々回、小さい衝突はたくさんあるのに、大きな衝突になると稀になっていきます。このような関係を「べき乗則」と呼ばれています。べき乗則から生物の大量絶滅を起こすような衝突は、5〜10億年に一度の頻度となりそうだと見積もられました。隕石の地球への衝突頻度を正確に求めることは、非常の難しい問題です。前回はその難しさについて紹介ました。
  そのような稀な出来事の見積もりは、どの程度の確かさがあるのでしょうか。また、衝突の規模と絶滅の程度の関係はあるのでしょうか。後藤さんと田近さんの研究成果に基づいて紹介ましょう。
  顕生代に形成された衝突クレーターで、大きいものから順にみていくと、直径180kmのチチュルブル(Chicxulub)クレーター(6550万年前)が最大で、K-Pg境界での大絶滅を起こしています。ついで、直径100kmのマニコーガン(Manicouagan)クレーター(6億1400万年前)、直径100kmのポピガイ(Popigai)クレーター(3550万年前)、直径85kmのチェサピーク湾(Chesapeake Bay)クレーター(3570万年前)、直径80kmのプチェジ・カツンキ(Puchezh-Katunki)クレーター(6億1400万年前)があります。ただし、海の部分のデータは含まれていません。
  いずれのクレーターでも、大絶滅との関連が証明されているものは、K-Pg境界だけです。それ以外のものは、絶滅との関連は不明となっています。つまり、すべてのクレータの形成年代が大絶滅の時代とはずれていて、またどの絶滅でも衝突の関連が示されていないということです。顕生代の大絶滅で、衝突と関係があったのは、K-Pg境界のものしかないのです。
  一般化すると、直径100km程度より小さなクレーターをつくるような衝突では、大絶滅が起こらないということになりそうです。絶滅の起こる限界サイズは定かではありませんが、直径200km程度以上のクレーターが候補になりそうです。
  地球では、直径200km程度のクレーター形成は、顕生代ではK-Pg境界で一回だけ起こった出来事のようです。200km級のクレーターを形成する頻度として、5〜10億年に一度という地球で求めた値は、はたして一般的なものでしょうか。
  地球上で大きなサイズのクレーターを調べていくと、フレデフォート(Vredefort)クレーターが直径300kmで20億年前、サドベリー(Sudbury)クレーターが250kmで18億5000万年前、そしてチチュルブル・クレーターの3つが知られています。35億年以降で200km級以上のクレーターが3つできます。まあ、間隔にはムラがありますが、10億年に一度程度という値のオーダーは正しそうです。
  月には多数のクレーターがあります。数100kmから数1000kmの巨大クレーターもたくさんあります。しかし、月のクレーターの多くは、創生期(38億年前より古い)ものです。創生期以降は、あまり大きなクレーターは形成されていません。他の惑星(金星、火星など)でも同じような結果になっています。金星で見つかっているミード(Mead)クレーターが、280kmで最大で、5億年以降に形成されたようです。
  不確かさは消えませんが、大絶滅を起こすような200km以上のクレーターを形成するような衝突はそうそうそ起こるものではなく、35億年以降、太陽系天体では、10億年に一度程度の稀な事件といってもいいでしょう。ただし、この数値は、オーダー(桁数)を表していると考えるべきです。これが、後藤さんらの結論です。
  不確かで、歯切れの悪い結論ですが、後藤さんらも指摘しているように、クレーターに関する詳細な調査が必要だということです。


Letter■ 情報の変質・台風 

・情報の変質・
不確かな状態、情報で科学を進めるのはなかなか難しいことです。
そんなときでも、だいたいでいいから
数値や見積が欲しいのは人情なのでしょう。
科学者も人ですから、同じような気持ちになります。
そして、見積もりを出します。
その不確かさは理解しています。
そしてオーダー(桁)で合えばいいというものであれば
その扱いをします。
しかし、数値が一人歩きをするとことがままあります。
数値の一人歩きで被害がなければいいのですが、
もしあるとそれは、科学者の責任でしょうか。
それとも、伝えたメディアの不手際でしょか。
よく聞かなかった受け手のせいでしょうか。
情報とは、中継や受け手に伝わる過程で
変質することがあります。
注意しておく必要がありそうですね。

・台風・
進度の遅い台風が、西日本を通りました。
ゆっくりした進度なので、
前線を刺激したり、暖かい湿った空気が流れ込んだりで、
北海道も、風、雨、蒸し暑い天気など
めまぐるしく変わって行きました。
また、次の台風も来ています。
9月は、時期的に台風のシーズンなのですが
私にとっては、野外調査の時期でもあります。
今回は室戸に出かけますが
テーマをもった調査ですが、
そのテーマにあった露頭を見つけることが重要です。
3ヶ所ほど見つけたいのですが、
どうなるかは、いってみないとわかりません。


表紙に戻る