生命の歴史
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Essay■ 2_78 大気の酸素:酸素の物語4
Letter■ 旧赤色砂岩・赤の大陸
Words ■ 赤が決め手となる


(2009.06.04)
  生物が陸に進出したのは、大気中に酸素が蓄えられた後でした。それ以前、生物は、海の中の生活していました。海の中にはすでに光合成をする生物がいましたので、生みも酸素に満ちていたはずです。では、いつ、大気や海洋に酸素が蓄積されてきたのでしょうか。酸素の蓄積の証拠は、どうすればわかるのでしょうか。


Essay■ 2_78 大気の酸素:酸素の物語4

 酸素は、いつ大気に蓄えられたのでしょうか。酸素は光合成によって植物がつくったものですから、陸上植物や海の植物性プランクトンの生息域である大気や海洋が、酸素の生産場所となります。そしてそこは、酸素の蓄積場所ともなります。
  残念ながら、大気(気体)や海洋(液体)のように固体でない物質は、化石になったり、地層中に保存されたりしません。ですから、大気や海洋が酸素を蓄えた時期を知るためには、固体になっている酸素を見つけなければなりません。
  昔の酸素の様子を知るための有力なマーカーとして、鉄があります。鉄は、地球にはたくさんある元素で、酸化されやすいため酸素の存在に敏感だからです。鉄は、酸化されると赤っぽくなったり、青っぽくなります。私たちが一番よく目にするのは、鉄のサビの赤褐色でしょう。このような鉄の酸化物の色は、古来から弁柄(べんがら)や青色のプルシアンブルーなどの顔料として利用されてきました。
  砂に少しでも鉄の成分があると、酸化されれば赤っぽくなります。乾燥したオーストラリアの大地、アフリカのサハラ砂漠などは、赤っぽい砂に覆われています。このようなものが、たまっていくと赤っぽい砂岩の地層となります。大気中に酸素ができると鉄の酸化物として固体になります。酸化物がその場でたまったり、あるいは海に運ばれたりして堆積物になると、やがては赤っぽい地層ができます。
  鉄の酸化物には、二価と三価の陽イオン(Fe2+、Fe3+)があります。二価の鉄イオンは水に溶けやすく、三価の鉄イオンは強い酸性の水には溶けますが、中性の水には溶けにくいという性質があります。海水中に溶けていた二価の鉄イオンが、酸素が増加すると、さらに酸化され三価のイオンになり、沈殿していくことになります。つまり、鉄イオンが海水中にあり、そこに酸素が加わると、酸化物の沈殿ができることになります。
  海でも陸でも酸素があれば、鉄の酸化物は固体になります。つまり、酸素があれば、鉄の酸化物の混じった堆積物ができるはずです。過去の地層から鉄の酸化物を見つければ、海洋や大気に酸素があったかどうかを判定することができるわけです。目印は、赤褐色の堆積岩です。
  そのような目でみていくと、赤っぽい堆積岩はあちこちでみつかります。赤っぽい堆積物は特徴的だったので、地質学の発祥地でもあるイギリスでは、「赤色砂岩」と命名され、記載されていきました。イギリスでは赤色砂岩には、新旧2つの時代のものがあり、新しいものを「新赤色砂岩」、古いものを「旧赤色砂岩」と呼んでいました。
  新赤色砂岩はペルム紀から三畳紀初期に堆積したもので、旧赤色砂岩はデボン紀を中心として後期シルル紀から初期石炭紀までにできたものです。いずれも、大陸内の砂丘や湖、河川、あるいは大陸近く海底にたまった堆積岩です。これらは、大気中に酸素があったことを示しています。時期的にも、前回紹介した陸上に進出した生物化石の証拠とも一致します。
  固有の名称はついていませんが、赤色の砂岩は、もっと古い時代からも見つかります。カンブリア紀以前にも、赤色の砂岩があります。そして、20億年前ころまでの堆積岩に、赤色の砂岩が見つかります。これは、20億年前にはすでに大気に酸素があり、それ以降大気中にはずっと酸素があった証拠となります。
  ところが、20億年前より古くなると、赤色砂岩は見られなくなります。大気中の酸素は、どうも20億年前あたりを境にして、一気に増えてきたことを意味します。
  では、海の中の酸素は、いつ増えたのでしょうか。そして、その痕跡は、どこに残されているでしょうか。それは、次回の話としましょう。


Letter■ 旧赤色砂岩・赤の大陸 

・旧赤色砂岩・
スコットランドの地質学者ジェームズ・ハットンは
スコットランドの海岸で不整合を発見しました。
それは、地質学の黎明というべき出来事でした。
その不整合は、下にシルル紀砂岩
上にデボン紀の旧赤色砂岩が覆っているものでした。
旧赤色砂岩はスコットランドではよく目にします。
この赤色の石材で作られた建物が多数あるため
首都エディンバラは、ピンク色の町並みに見えます。

・赤の大陸・
オーストラリアを赤の大陸と呼ぶことがあります。
それは、エアーズロックのような
赤っぽい堆積岩がありますが、
赤っぽい堆積岩は過去の大気中の酸素の痕跡です。
西部から中部にかけて広がっている乾燥地帯は
赤い砂や土が覆っています。
アウトバックと呼ばれる乾燥地帯には
アリ塚もありますが、もちろん赤くなっています。
地表を覆っている赤っぽい砂は、
現在の大気の酸素の痕跡です。
オーストラリア大陸にはいたるところに
酸素の痕跡が見つかります。


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