生命の歴史
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Essay■ 2_56 生命の起源9:誕生のストーリ
Letter■ 難問・コモノート
Words ■ ドグマは過去のもの?


(2007.01.11)
  生命起源の話も、いよいよ最終回となりました。生命起源のストーリを概観しましょう。


Essay■ 2_56 生命の起源9:誕生のストーリ

 生命誕生の謎は、今までみてきたどのアプローチからも、解明することでできませんでした。それぞれのアプローチは、独立した考え方、調べ方でありました。ですから、そこから導き出された条件や可能性が一致すれば、生命誕生のストーリを考える上で重要な参考になります。
  生命誕生のストーリを考える前に、ひとつ重要なことがあります。それは、セントラル・ドグマ(中心教義)とよばれているものです。DNAの構造を発見したフランシス・クリックが1958年に提唱したものです。
  セントラル・ドグマとは、すべての生命に共通する仕組みとして、遺伝情報の流れが、
  DNA→RNA→タンパク質
となっていると考えるものです。DNAに蓄えられた遺伝情報は、RNAに複写され、RNAからタンパク質に翻訳されていきます。これが生命の営みにおける遺伝情報からみたじゅうような原理だと考えられました。確かに多くの生命で、遺伝情報はこう流れていき、証拠もいっぱいあります。一杯あるからといって、この仕組みが生命誕生のストーリを規定するものではありません。
  このドクマは、いまや潰れてしまいました。それは、情報の流れや逆行するものがあることがいろいろわかってきたからです。例えばRNAからDNAに遺伝上を書き込む作用をする逆転写酵素が発見されたり、タンパク質からRNAをつくるもの見つかりました。
  また、遺伝情報が常にこのような流れしかないとすると、生命誕生では、DNAが最初に生まれなければなりません。DNAは非常に複雑な構造で、それを最初につくらなければならないことを意味します。しかし、逆転写できるとなると、比較的単純な構造のRNAからDNAをつくることができます。遺伝情報の保存のためにDNAがあとからできればいいことになります。誕生以降の話ですから、生命の進化の過程で生まれたことと合理的に考えられます。こんようなことから現在では、セントラル・ドグマという考えは、用いられていません。
  タンパク質かRNAかのどちらかができれば、他方が合成できるということです。ここまでストーリができると、どちらがつくりやすいか、どちらの証拠が見るかるかということでストーリが決まってきます。残念ながら、その決着はまだついていません。
  地球最初の冥王代におこったはずの化学的進化とは、どのようなものだったのでしょうか。
  まず、原始の地球のどこか(多分、深海の熱水噴出孔だろうと考えられています)で、原料の分子の合成されていきます。あるいは、隕石や彗星か由来するものもあるかもしれません。
  種々雑多な分子量の小さい有機物が合成されて、集まっていきます。そのうちの一部は、高分子へとなっていきます。まるで有機物ががらくたのようにいっぱ集まった状態(がらくたワールドと呼ばれています)が出現します。
  がらくたワールドの次に起こることとして、2つの可能性が提示されています。一つはンパク質ワールド、もうひとつはRNAワールドタです。
  がらくたワールドから、アミノ酸の合成が先に起こったなら、タンパク質ワールドが最初に現われます。タンパク質ワールドでは、いろいろなタンパク質が合成されていき、その中のあるものが、RNAがつくる機能を持てば、RNAをつくることができます。
  RNAが最初に合成されれば、RNAワールドが出現します。各種のRNAが合成され、その中からタンパク質が合成するものが生まれます。
  タンパク質ワールドとRNAワールドのどちらが先でも、タンパク質とRNAの両方を合成できます。
  別のプロセスとして、膜の合成が起こります。実は、比較的簡単な合成過程で、丸い液滴(コアセルベートと呼ばれています)ができることが実験でわかっています。多様な膜が合成され、その中のあるものが、外の特別な成分のみを通すような性質を持つものが生まれます。
  最後に、膜の中にRNAとタンパク質がおさまり、代謝や複製をすることができれば、生命誕生といえます。
  最初の生命は一種類だったのでしょうか。まだ確証はありませんが、科学者たちは一種類と考えて、そのような生物をコモノートと呼んでいます。
  その後、いろいろな試行錯誤(もう生存競争というべきかもしれません)がおこなわれて、多様な生物が生まれ、特別な条件で、化石として残る生命の誕生すれば、私たちはそれを発見することができます。
  これが現在考えられている生命誕生のストーリです。


Letter■ 難問・コモノート 

・難問・
9回にわたった生命誕生シリーズがやっと終わりました。
生命誕生の研究は進んでいますが、
いまだに、解明されていない謎です。
多くの分野の研究者が取り組んでいます。
生命誕生とは、それほど魅力ある研究テーマなのでしょう。
今後も多くの研究者が努力を続ければ、
この謎は本当に解けるのでしょうか。
生命の誕生とは、「私たちはどこから来たか」という問い
への答えともなる重要なものだと思います。
研究が進めば、どの時点で生命誕生しとえるのかが問題になるでしょう。
そこでは、生命とは何かという問題が新たに生じることでしょう。
これは突き詰めると「私たちとは何か」という問いになるでしょう。
現在のこれほど進んだ科学をもってしても、生命の定義すらできません。
ですから、生命誕生の問題も、もしかすると、
なかなか解決しない難問としてずーっと残るのかもしれませんね。

・コモノート・
最初に誕生した架空の生物をコモノートと呼んでいます。
コモノートは、あるひとつの種類の生物だと考えられています。
私は、多数の生物がいてもいいのではないかと考えています。
一つの環境だけで生物が誕生するとは思えないからです。
熱水噴出孔は多数あったはずです。
その環境は同じようでしょうが、緯度や深度、熱水の成分、温度など、
多少の条件は違っていたはずです。
そうなれば、その違いを反映した
多数のコモノートが生まれたかもしれません。
そのちょっと違う生命が、いく種類も生まれ、
やがて生存競争で、生き残ったものが私たち現在の生命につながる
共通の祖先、コモノートだったかもしれません。
コモノートは、生存競争を勝ち抜いた勝者であったのです。
勝者である現在の生物からは、敗者を探ることは困難でしょう。
敗者を探すには、合成実験や化石から見つけるしかないでしょう。
あるいはどこかに隠れているのかもしれません。


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