生命の歴史
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Essay■ 2_51 生命の起源4:素材の合成
Letter■ 常識を打ち破る・ウォームビズ
Words ■ 内外ともに寒い冬


(2006.12.07)
  生命誕生を調べる間接的方法として、実験室で合成していくというものがあります。しかし、当初それは実証不可能と考えられていました。


Essay 2_51 生命の起源4:素材の合成

 生命の起源を調べるために、生命を合成するという方法があります。現実に起こったかどうかはわかりませんが、実験室で、生命誕生のプロセスを再現していき、生命の誕生に迫ろうという考え方です。最初から生命を実験室でつくるのは困難でしょうから、まずは、生命の素材をつくることからはじまりました。
  生命の化学合成について、最初に考えを発表したのは、旧ソ連のオパーリン(A.I. Oparin)でした。オパーリンは、1922年に生命起源について講演し、1924年にその内容を「生命の起源」でまとめました。
  オパーリンは、3つの段階を経て、生命は誕生したと考えました。
  第1段階は、生命体の基本となる窒素を中心とした化合物(窒素誘導体とよばれるアミノ酸、核酸など)が、地球初期にあったメタンがアンモニアと反応して合成されます。これは、無機物からできた有機物が合成されることになります。第2段階として、原始の海で、濃度の高い「有機物のスープ」をつくりアミノ酸が集まり、タンパク質を合成されていきます。第3段階は、タンパク質を中心とする集合体が、入れものにはって外界と物質代謝をしはじめます。たんぱく質が膜に入った粒状の組織(コアセルベードと呼びました)となり、大きく成長した粒が分裂していくようになったと考えました。ここまでくれば、生命と呼んでいいようなものとなります。
  このような段階は、化学進化(分子進化)と呼ばれています。化学進化は、地球が多様な環境で、長い時間かけておこした化学反応のはずです。実験室では、短い時間に限られた条件でしか調べることができませんから、科学的に実験室で合成するのは不可能と考えられていました。これが当時の常識でした。
  しかし、そんな常識を覆す実験が行われたのです。1953年、シカゴ大学のユーリー(H.C. Urey)を指導教官とする大学院生のミラー(S.L. Miller)が、オパーリンの第1段階に相当する部分を実験しました。
  当時、原始の大気は、還元的な大気だと考えられていたので、メタン、アンモニア、水素の混合ガスを原始大気に見立てて用いられました。その混合ガスを原始海洋に見立てた水をフラスコに入れて、水を沸騰させました。混合ガスの中では、雷に見立てた放電によって火花が散っています。水蒸気や混合ガスは循環するようにされていて、途中で生成物を集める仕組みをつっておきました。
  ミラーは、このような原始の地球の海洋と大気の状態を、1週間ほど継続して実験をしました。すると、シアンやアルデヒド、各種のアミノ酸が、合成されたのです。この実験は、2つの意味で多くの研究者を驚かしました。
  ひとつは、有機物は生物しか合成できないものだと思われていたものが、生命の関与しない(無機的といいます)条件でも、簡単に合成できることがわかりました。もうひとつは、生命に必要な有機物が、短い時間で、多様なものが合成できるということです。生命の化学進化の段階も実験的に調べる道を拓いたのです。当時を有機物に関する常識をくつがえしたのでした。
  その後、生命に関する合成実験は大きく進歩しました。それは次回としましょう。


Letter■ マーブルバー・真実 

・常識を打ち破る・
常識を打ち破るには、常識にとらわれないことが重要です。
一番簡単なのは、そんな常識を知らないことです。
今回登場したミラー氏の指導教官であるユーリーは
ノーベル賞をもらった有名な科学者です。
液体水素の蒸留から、重水素の分離に成功し、
1934年にその成果を発表しました。
同年、重水素発見の功績によってノーベル化学賞を受賞しています。
マンハッタン計画にも参加し、ウランからウラン235同位体だけを集める
気体拡散法を開発し、原子爆弾の実現に貢献しました。
ユーリーは物理学者あるいは化学者ですが、
もしかしたら、ユーリーかミラーは、生命の起源に関しては、
あまり詳しくなかったのかもしれません。
だから常識にとらわれることなく、
常識破りの実験を行うことができたのかもしれません。
この実験のおかげで、
科学は大きな進歩を遂げることができるようになりました。

・ウォームビズ・
12月に入って、北海道は寒波が襲来していて
根雪のような雪が積もっています。
昼間でも雪がほとんど解けません。
その上、ウォームビズで、予算削減のために、
室温20度に設定するという試みがなされています。
そのため、暖房がある時間になると弱くなります。
着込んでいるのですが、寒くて手がかじかみます。
他の建物は個別暖房であったり、ウォームビズの対象にならかなったりで
暖かくなっています。
私は、講義や会議などがないときは、
基本的に研究室で仕事をしています。
ですから、研究室が寒いのは答えいます。
同じ棟にいる研究者からも苦情がでています。
前に引いた風邪がなかなかなおらないのは、
ウォームビズのためでしょう。
なんとかしてもらうように陳情しようと考えています。


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