生命の歴史
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Essay■ 2_50 生命の起源3:バイオマーカー
Letter■ 早わかり地球と宇宙・師走
Words ■ 本をよろしく


(2006.11.30)
  生命誕生の化石探しは成功しませんでした。他の手段としてバイオマーカーが利用されています。今回はバイオマーカーについて紹介します。


Essay 2_50 生命の起源3:バイオマーカー

 生命誕生の頃の化石を見つけるのは、なかなか困難でした。しかし、化石本体がなくても、生物の痕跡を見つけることができます。例えば、生物しか作れない化学物質があり、それを古い岩石から見つけたとしたら、それは、生物の痕跡、あるいは一種の化石とみなせるはずです。
  1968年、エグリントンとカルビンは、「過去の堆積物中に残されている有機物」を化学化石と定義しました。
  ここでいう有機物とは、生物しか作れないようなものなります。そのような有機物には、アミノ酸、タンパク質、DNAやRNA、炭化水素、などがあります。では、それぞれの有機物は、どれほどの期間、地層の中に保存されているのでしょうか。
  1954年、アメリカのアーベルソンによって、デボン紀のオハイオ頁岩の板皮類の化石から、7種類のアミノ酸(グリシン、アラニン、ズルタミン酸、ロイシン、プロリン、アスパラギン酸、バリン)が検出されましたた。この研究によって、化石中に有機物が残っていることがわかりました。この研究を契機にして、1960年代に古い時代の岩石で、有機物探しがはじまりました。
  南アフリカ、トランスパールのフィグツリー層群から、31億年前のアミノ酸が検出されました。ところが、1969年に、アーベルソンとヘアーは、カナダのスペリオル湖北岸のガンフリント層(19億年前)のチャートのアミノ酸が、すべて現生生物の汚染であることを指摘しました。ですから、今までの研究が、すべて再検討しなおさなければならなくなりました。
  このため生命の起源の化石探しは、一時挫折しました。しかし、チャートに中であればアミノ酸は安定に保存され、実験によれば、少なくとも19億年前のチャートには、アミノ酸が保存されている可能性があると考えられています。
  いくつかのアミノ酸が集まって多種のタンパク質ができます。ヒトの体には、500万種のタンパク質あるといわれています。そのうち最も多いのは、コラーゲンとよばれる線維のタンパク質です。コラーゲンは全タンパク質の3分の1を占めているのですが、コラーゲンは、象牙質、骨、軟骨、腱、皮膚の真皮、内蔵の膜などを構成しています。コラーゲンとは、安定した物質なのです。古いコラーゲンとしては、現在、島根県日御碕沖の海底から見つかったナウマンゾウの牙(3万8500年前)から、コラーゲンが検出されています。これが、現在最古のコラーゲンの記録です。
  その他のタンパク質として、カルボキシル基はジュラ紀後期(1億5000万年前)の恐竜の骨から検出され、酸性ペフチドはジュラ紀中期(1億6500万年前)のカキの化石から検出されました。
  DNAは、今まで400万年以上は保存されないとされていました。しかし、特別な条件(フェノールやタンニンの存在下やコハク中)では、DNAは安定に存在できることがわかってきました。フェノールやタンニンの存在下では、1700万年前のモクレンのDNA化石が発見されています。現在、一番古いDNAは、レバノン産の白亜紀前期(1億4000万年前)のゾウムシの仲間の昆虫からリボゾームRNAが検出されています。
  やはり有機物では、生命の起源に迫るのはなかなか難しいようです。そこで、化学的に安定な炭化水素(炭素と水素の化合物)を、生物の指標として用いる方法が考案され、バイオマーカー(生物指標化合物)とよばれています。さらに炭化水素の炭素同位体は、生命起源の研究には、非常に有効です。このような炭化水素は、現在生命起源の化石として非常に有力な指標として利用されています。
  最古の生命活動の痕跡、あるいは化石探しが、地球最古の堆積岩である38億年前のグリーランドのイスアのものでおこなわれました。1978年、ドイツのフラッグは、イースト菌状の丸いものを化石としました。その後、それは、石英中の液体包有物と判明しました。次いで、ドイツのシドロウスキーは、石墨の炭素同位体組成が、生物起源の炭素であるとしました。しかし、そのような炭素同位体は無機的(生物によらず)に合成できることをが証明されました。最近では1996年、モージスらが堆積物中の燐酸塩鉱物(アパタイト)中の炭素同位体組成が、生命活動の痕跡であると、指摘しました。しかし、2002年、その岩石が火成岩で、堆積岩でないことがわかり、否定されました。
  現在バイオマーカーをもってしても、なかなか生命の起源に迫てません。しかし、科学者たちはいくつもの失敗によって、いろいろな知識を得ました。そしてその失敗から学び、より高精度の生命誕生探しへと進んでいきています。
  さて最初の生命の化学化石はいつ見つかるのでしょうか。


Letter■ マーブルバー・真実 

・早わかり地球と宇宙・
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高校で習う地学の内容を網羅する構成になっています。
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各テーマは、イラスト、写真などでの説明をしています。
103個のテーマから構成されています。
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書き方も、このメールマガジンと同じく、
平易で分かりやすいものを心がけました。
よろしければ、書店で手にしてください。

・師走・
11月も、もう終わりです。
北海道は雪が降っては溶けるの繰り返しです。
この繰り返しで冬へと季節は巡っていきます。
今年もあと一ヶ月と聞くと、ついついあれもしていない、
これもやり残しているとことが思い浮かび、ついついあせります。
私も落ち着かなくなって走り出したくなるような気分です。
師走となると落ち着きがなくなるのですが、
あせることなく、着実にいきたいものです。]


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