生命の歴史
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Essay■ 2_33 予期できぬ絶滅
Letter■ 飛躍的進化
Words ■ 災いは突然に 


(2004年2月12日)
 生命は、地球外の原因によっても絶滅に追い込まれることがあります。そんな原因で、有名なものとしてK-T境界の恐竜絶滅です。そんなK-T境界についてみていきましょう。


Essay 2_33 予期できぬ絶滅

 古生代から現在まで続く顕生代の中で、大きな絶滅が5つありました。それらは、絶滅のビックファイブ(Big five)と呼ばれています。その中でも、いちばん大規模な絶滅は、古生代と中生代の時代境界(P-T境界と呼ばれています)の絶滅でした。ビックファイブでいちばん規模の小さなものが、中生代と新生代の境界の絶滅です。
 いちばん規模が小さいといっても、ある見積もりによれば、種の数で絶滅率が70%に達するといわれています。個体の数ではなく、種類の数であることに注意してください。個体数の比率だと、多くいる個体が絶滅すると、種類数がそれほど多くなく、このような多くの比率を満たすことも可能です。でも、種類数が多いということは、生物の多様性が、30%まで減ったということを意味しています。
 この事件で、恐竜たちは絶滅しました。絶滅は陸地だけでなく、海の生物にも及びました。中生代は、恐竜が栄えていた時代です。この絶滅が中生代の最後の時代である白亜紀の終わりを告げました。
 中生代と新生代の時代の境界は、6500万年前になります。絶滅の事件は、6500万年前に起こったのです。
 ところで、この時代境界を「中生代と新生代の境界」と呼んでもいいのですが、時代区分では、「紀」の名称を用いて、と呼ぶのが習慣です。新生代の始まりの時代は、第三紀ですので、「白亜紀と第三紀の境界」と呼ばれます。地質学者は、この「白亜紀と第三紀の境界」を「K-T境界」と約して呼んでいます。白亜紀は、英語ではCretaceousといい、第三紀はTertiaryといいます。本来ならC-T境界というべきなのですが、カンブリア紀(Cambrian)の頭文字もCなので、混同を避けるために、白亜紀のドイツ語のKreideのKを用いることになっています。ですから、K-T境界と地質学者は呼ぶのです。
 さて、K-T境界の絶滅ですが、隕石が原因だと考えられています。まさに、大絶滅の地球外の原因としては、もっともよく知られているものです。10kmほどの直径の隕石が、メキシコのユカタン半島の北部海岸、メーリダ町の北に落ちたと考えれれています。クレーターの中心にある小さな町チチュルブ(Chicxulub、英語読みでチクサラブと呼ばれることもあります)にちなんで、チチュルブクレーターと呼ばれています。
 隕石は、突然、やってくるものです。地球の生物の進化や、地球環境とは、まったく関係なく落ちてきます。ですから、生命にとっても、地球にとっても、唐突の予期しない出来事なのです。どのような生命が、どのような状態であろうと、お構いなしです。
 もし、衝突の事件が、地球内でおこった大異変の前後だとしたら、生命へのダメージはもっと大きかったかもしれません。あるいは、長く穏やかな環境が続いた時代に生きていた生物たちは、突然の環境変化には弱いのかもしれません。
 中生代は顕生代の中でも比較的穏やかな時代でした。ですから、恐竜のような巨大な生物が陸上でも生活できたのです。恐竜は、生物としてかなり特殊化しています。そのために、突然の異変には対処できなかったのかもしれません。
 生命の多様性は、恐竜の影にも、哺乳類という生物種を用意していました。裸子植物の代わりに被子植物を用意していました。恐竜の支配下で、それまで細々としてしか、生きられなかった哺乳類の一部は、何とかK-T境界の大事件を生き延びました。そ
 の理由はわかりません。小さいこと、夜行性、恒温性、冬眠(?)などいろいろな可能性があります。でも、結果として、K-T境界の隕石衝突の事件は、哺乳類にプラスにはたらきました。そして、多くの種が絶滅した後に、ほとんど手付かずの天地が、生き延びた生物には与えられました。そんな突然の自由の広い天地に、はいずりだした生物の中では、恐竜にない能力をもっていた哺乳類が、いちばん強いものとなりました。そして、新生代は哺乳類が大いに繁栄している時代となったのです。


Letter■ 飛躍的進化 

・飛躍的進化・
歴史は一度きりですから、「もしも」はありません。
でも、もし隕石の衝突がなければ、ということを
考えてみたくなるのは、人情です。
「もしも」K-T境界に隕石の衝突がなかったとしたら、
恐竜たちは絶滅することなく繁栄していたでしょう。
そもそもK-T境界すらなかったはずです。
恐竜たちの進化は、穏やかなものだったはずです。
生活様式や生き方の大きく違う他の生物は、
環境の大きな変化がない限り、
今繁栄している生物を駆逐して、
取って代わることは難しいと思います。
哺乳類は、やはり恐竜の影におびえながら、
細々と暮らしていたと思います。
もちろん、ヒトは生まれることはできなかったはずです。
以前、どこかの恐竜展で、
進化した爬虫類の想像上の模型を見たことがあります。
毛のない二足歩行をする人のような形態をしていました。
ここまで進化するでしょうか。
大きな飛躍的進化は、穏やかな環境変化からはどうも生まれそうに思えません。
過酷な環境変化が起こった時、
これを乗りこえたものだけが、飛躍的な進化をするようです。
このようなことを、生命の歴史が物語っているような気がします。
考えすぎでしょうか。


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