生命の歴史
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Essay■ 2_25 最初の生命
Letter■ 生命シリーズのつづき・異変
Words ■ 生命と地球のありようは複雑だ


(2003年12月11日)
 約38億年前の地層からは、まだ生命は発見されませんでした。では、現在、多くの研究者が認めている最古の生命は、どこにいるでしょうか。そんな話題を紹介しましょう。


Essay

 堆積岩が最古の生命探しの重要な素材になります。ですから、38億年前の最古の堆積岩が、最古の生命探しの舞台となりました。でも、今のところ、何度も試みられましたが、まだうまくいっていません。最古の生命とは、どこから見つかったでしょうか。それは、やはり、堆積岩の中でした。それも、いろいろ問題のある堆積岩なのです。
 最古の生命は、西オーストラリアのマーブルバーの西にある約35億年前のダッファー層の中から、発見されました。1978年に、ダンロップ(J.S.R. Dunlop)が、直径数μmの球状の化石を数百個発見を発見しました。化石の形から、シアノバクテリア(藍藻類)と考えられました。
 その中には、2つや4つに細胞分裂しているものも発見されていました。また、同じ地域から、1987年にショップとパッカー(J. W. Schopf & B.M. Packer)が、タワー層とアペックス玄武岩層中のチャートから、球状のコロニーのような化石と繊維状の化石を発見しました。それもシアノバクテリアの化石と考えられました。
 その証拠となったのが、いちばんは形態(細胞)の特徴でした。でも、これは、必要条件ではありますが、これだけでは確実な証拠とはいえません。なぜなら、単細胞の形は単純で、生物の作用でなくも(無機的に)、そのような形のものは、できるかもしれないからです。ただし、細胞分裂しているような形態は非常に重要です。なぜなら、複雑だからです。
 ショップらは、形以外に、化学成分を証拠として示しました。バイオマーカーと呼ばれるものです。
 バイオマーカーとは、生物指標化合物ともよばれます。化学的に安定な炭化水素(炭素と水素の化合物)を、生物の指標として考えようというものです。炭化水素の炭素同位体は、生命起源の研究には、非常に有効であることがわかっています。ですから、この炭化水素という化学成分は、化石であるという証拠として利用できます。ただし、グリーンランドの38億年前のものには、バイオマーカーがみられたのですが、否定されました。それは、無機的にでもできるからです。慎重になるべきです。
 ここの化石は多くの研究者が化石であると認めています。ですから、多分、なんらかの生物であったことは確からしいのです。でも、どんな生物であったかに関しては問題があります。
 ショップらは、シアノバクテリアであるという見解を示しました。それは、形やそのサイズ、地層にストロマトライト状の構造がみえるなどのことから推定したものです。ストロマトライト構造とは、同心円状の縞模様で、シアノバクテリアがつくる構造のことをいいます。
 その化石がシアノバクテリアであるとなると、いくつか重要なことがわかってきます。それは、シアノバクテリアが光合成をする生物だからです。35億年前に光合成する生物がいたということは、生命の誕生はさらに遡ることになります。なぜなら、光合成という作用は、複雑な機能によっておこなわれます。ですから、最初に生まれた生命が、そのような複雑な機能をもっているとは考えられません。もっと単純な機能しかないものから、進化してきたはずです。そのためには時間が必要です。ですから、生命の誕生は35億年前よりさらに昔になるはずなのです。
 その後の日本人の研究者たちが、別の説を出したのです。彼らは、化石産地周辺の地層を非常に詳しく調査しました。そして、地層ができた環境を復元していったのです。すると、地層から復元でされたのは、中央海嶺の熱水噴出口周辺の環境だったのです。
 中央海嶺は海の深いところにあります。深海とは、数1000mの深さの海の底です。そんな深い海底には太陽の光は届きません。ですから、光合成をする生物はいたとしても、住めないのです。ショップらがストロマトライトと呼んだ構造も、層状のチャートの地層とされました。ですから、ショップらのシアノバクテリアの根拠がつぎつぎと崩されていったのです。
 では、いったいどんな生物だったのでしょうか。そこで登場したのが、そんな深海の熱水噴出孔に好んで住む高熱性嫌気性古細菌というものです。いや、そんなところで生きていけるのは、高熱性嫌気性古細菌の仲間だけなのです。そして、そこは、生命誕生の場としてもふさわしいところでもあるのです。
 なぜなら、まだ、当時の地表付近は危険でした。太陽の光は紫外線が強く有害です。海岸付近は、いつ変化するかわからない不安定な場所です。当時の地球で一番安定していて、安全なところは、深海底です。そして、海嶺の熱水噴出孔はエネルギーを大量に発生しているところです。熱水噴出孔からは、栄養もたくさん放出されます。こんなところは、初期のか弱い生物が発生し、暮らし、そしてゆっくりと進化していくにはいいところではありませんか。もちろん今でも、熱水噴出孔では高熱性嫌気性古細菌は暮らしています。
 生命は、誕生間もないか弱いうちから、自分たちにとって一番安全で最適な場所を選んで生きていく能力が備わっていたのです。いやそうしなければ、生き残れなかったのかもしれません。


Letter■ 生命シリーズのつづき・異変

・生命シリーズのつづき・
再び、生命のタフさをさぐるシリーズです。
このエッセイでも書いたのですが、
生命がタフなのではなく、
もしかすると、生命とはそんな生き方でないと
生きていけないのかも知れません。
地球とはそんな生き方しか
生命に選択させてくれないのかもしれません。
単に見方の違いかも知れません。
なにかそこに地球と生命のあり方のようなものを
垣間見た気がします。

・異変・
前回のエッセイのこのLetterのコーナーで
衛星画像シリーズが終わった感想を書いたところ、
何か「異変」を嗅ぎ取った人がいます。
じつは少々の異変があったのですが、
これは、言いづらい問題です。
心と金の問題でありました。
ですから、変な書き方になったのかもしれません。
言葉は心を反映してしまうのですね。
勉強になりました。


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