生命の歴史
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2_14 20億年前の大絶滅


(2002年5月16日)
 私たち(生命、あるいは人類)は、平穏無事に、現在にたどり着いた訳ではないのです。紆余曲折をへて、それこそ波乱万丈の試練を乗り越えて、現在に、生きているのです。いや、生き延びてきたというべきかもしれません。そんな、事件で、最初で、最大の事件をみていきましょう。

 地球生命において、最大の事件、それは、約20億年前に起こったものです。これは、多くの科学者が、一番のものとしてあげる事件でしょう。では、その20億年前の事件とは、どんなものだったのでしょうか。
 20億年前までの地球環境は、二酸化炭素(CO2)を中心とするものでした。大気も、二酸化炭素が主要成分でした。もちろん二酸化炭素は、水への溶解度が大きいので、海にも多くの二酸化炭素が溶け込んでいました。
 ところが、約28億年前に、シアノバクテリアとよばれる小さな生き物が誕生しました。その生き物は、その後、約20億年前には、大量に発生したのです。それは、シアノバクテリアの敵が少なかったのと、繁殖する環境が整っていたからでしょう。
 シアノバクテリアは、光合成をする生き物です。光合成とは、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から、光のエネルギーを利用して、有機物と酸素(O2)をつくるという作用のことです。シアノバクテリアが大量発生するということは、大量に酸素が発生するということです。
 その証拠が、大陸各地からみつかっています。ストロマトライトと縞状鉄鉱層とよばれる岩石が、その証拠です。
 ストロマトライトは、全体としてはマッシュルームのような形をして、内部に同心円状の構造をもつ岩石です。このようなマッシュルームが密集してできた岩石が、大陸の堆積岩の中から、大量にみつかります。以前は、その素性やでき方がわからなかったのですが、西オーストラリアの西北にあるシャーク湾ハメリンプールから、同じ構造をもつ岩石がみつかったのです。
 ハメリンプールでは、ストロマトライトが、現在つくられているさいちゅうでした。シアノバクテリアが表面に群生して住んでおり、盛んに光合成をしているのです。今まで見つからなかったのは、シャーク湾のように塩分濃度が異常に高い、特殊な環境にしか生き延びてなかったのです。しかし、かろうじてでも、ストロマトライトを作る生物が、生き延びていたおけげで、その岩石の素性や成因がわかったのです。つまり、大量のストロマトライトの存在は、大量の酸素の発生を意味します。
 もう一つの証拠の縞状鉄鉱層は、鉄の原料となる鉄鉱石のものとです。鉄鉱石は、大陸各地で、大規模に露天掘りされています。つまり、大量の縞状鉄鉱層が存在するのです。その大規模な縞状鉄鉱層の形成された年代が、やはり約20億年前なのです。縞状鉄鉱層は、海に解けていたいた鉄のイオンが酸化状態になることによって沈殿してできる堆積岩だと考えられています。つまり、海水中の酸素の量が多くなると形成される岩石なのです。
 ストロマトライトと縞状鉄鉱層は、呼応していたのです。どちらも酸素の量産が起こった証拠なのです。
 海で鉄を使い尽くすと、酸素はやがて、海水からあふれ、大気中へのでてきます。大気の環境も酸化状態になるわけです。
 酸素は、生物にとっては、猛毒です。酸素は、ものを酸化させます。生物にとって、酸素に満ちた環境では、からだが、酸化、つまり分解していくのです。それまで、酸素のない環境に生きていた生物は、20億年前ころ、大絶滅をしたはずです。
 シアノバクテリアのもちろん生き残り繁栄しましたが、解毒能力を持つミトコンドリアという装置を体にもっていた数少ない生物のみが、生き延びました。それは、私たちの祖先でもあるわけです。私たちの祖先は、地球上最大の試練、大絶滅を生き延びたのです。