地球の歴史
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Essay■ 1_211 テクタイト 5:継続する研究
Letter■ 湧き出るアイディア・分割した論文
Words ■ 忙しさで忙殺されそうですが充実しています


(2024.02.15)
 インドチャイナイトは、非常に広範に分布しています。近年、研究が進み、形成時代や温度などの実体が、徐々に明らかになってきました。このテクタイトを形成した衝突は、生物にどのような影響を与えたのか気になります。

Essay■ 1_211 テクタイト 5:継続する研究

 インドチャイナイトでは、これまでのエッセイで、ラオス南部のボーラウェン高原に落下した隕石によるものだという報告を紹介しました。巨大なクレータができたのですが、その後、火山活動による溶岩で、クレータが埋められたということを、人工衛星からの重力や磁力のデータから示され、やっと位置が特定されました。
 他にも、インドチャイナイトに関する研究がいくつか進められています。2019年にMeteoritics & Planetary Science誌に発表されたジョーダン(Jourdan)らの共同研究による
Ultraprecise age and formation temperature of the Australasian tektites constrained by 40Ar/39Ar analyses
(40Ar/39Ar分析によるオースタラリアンテクタイトの超高精度の年代と形成温度への束縛条件)
という論文があります。
 この論文では、タイ、中国、ベトナム、オーストラリアからそれぞれ一つずつテクタイトを採取して、2つの研究所で3つの測定器を用いて、データが検証されました。加熱しながら測定するという手法でも、精度を上げるようにしました。その結果、40Ar/39Arによる年代は、78.81万年前(78.81 ± 0.28 万年前)となり、これまでより数倍の精度で年代を決めました。また、タイのテクタイトで温度推定がなされました。形成時の最低温度は、2350〜3950°Cとわかってきました。
 公表時代は前後しますが、2022年の同誌に発表された論文で、千葉工業大学の多田賢弘らの共同研究による
Identification of the ejecta deposit formed by the Australasian Tektite Event at Huai Om, northeastern Thailand
(北東タイ、フアイオムでのオーストラリアンテクタイト事件による放出物堆積の特定)
という論文があります。
 この論文では、フアイオムの地質調査から、3つの放出物を含むラテライト(鉄やアルミニウムの水酸化物を多く含むサバンナや熱帯雨林に分布する土壌)層から、テクタイトを見つけています。下位には衝突時で再構成された層があり、その上に粗粒の砂とテクタイトの降下物の層ができ、もっとも上には細粒の降下物の堆積層があることを示しました。そして、それらの層には、衝突石英もあることを明らかにしました。
 他にも、テクタイトの分布範囲から、クレータのサイズを33〜120kmと推定したり、イリジウム濃度から重量15億tの隕石だったという推定などもされきました。多くの研究者のさまざまな視点での研究によって、インドチャイナイトの実体が少しずつ明らかになってきました。
 隕石のサイズとしては、大絶滅を起こすほどではなかったようですが、このテクタイトの分布域の広さを見ると、その衝突の衝撃は非常に大きなものだったと想像できます。約80万年前は、原人がこの地域にもいたはずです。彼らは絶滅したのでしょうか。アフリカにしか生き残れなかったのでしょうか。ヒトの進化との関係が気になりますが、このシリーズはここまでにしましょう。


Letter■ 湧き出るアイディア・分割した論文 

・湧き出るアイディア・
現在書いている論文に手こずっています。
来年、出版しようと考えている本の
重要な視座を決める内容なので、
重要な論文になります。
別の論文を書いている時に
新しいアイディアが浮かびました。
そのアイディアが連鎖しながら発展して
この論文の骨子へと繋がりました。
さっさと書けると思っていたのですが、
データを大量に扱い、文献を収集して内容を確認し
なければなりませんでした。
すごく手間がかかっていますが、
近いうちに粗稿ができそうです。
粗稿ができた段階で、この論文は一旦休止します。
本命の著書に執筆を急がなければなりませんので。

・分割した論文・
論文に関しての話題が続きまます。
前回投稿予定の論文は、重要な内容で
長いものになりました。
編集担当の人に相談したら、長編の論文は掲載できない。
しかし、同一著者の別の論文の掲載は可能だ。
ということなので、
いくつかに分けることにしました。
すると3編の内容に分割でき、
そのうち2編を雑誌に投稿しました。
そして残りの1編を、
別の雑誌に投稿するつもりで完成させました。
その時、上記の新たな論文のアイディアが
次々と湧いてきたのです。