地球の歴史
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Essay■ 1_198 地球内の月 4:ティアの残骸
Letter■ 出張・ガタのきた体
Words ■ 北海道は涼しくなってきました


(2021.09.23)
 LLSVPが、海洋プレート由来であるという考えを紹介しました。別の考えがあります。月を形成したティアの残骸が、地球内部に残っているというものです。それはどのようなものでしょうか

Essay■ 1_198 地球内の月 4:ティアの残骸

 LLSVP(大規模S波速度低速度領域)は、マントル物質が冷たいか、密度の大きな物質があれば、地震波が遅くなっていくので、説明できます。その条件を満たすものとして、沈み込んだ海洋プレートだとうまく合うので、定説となっていました。実際に、地震波で観測する(地震波トモグラフィ)と、海溝で海洋プレートが沈み込んでいる先の遷移帯には、冷たい物質の塊があることも、重要な根拠でした。前回紹介したように、マントルとコアの境界部にあるLLSVPの特徴が、海洋プレートであることで一致することが指摘されていました。
 地震波速度が小さいという事実で、そこには周りのマントル物質とは異質のものが存在することは確かですが、その由来として、温度と密度のどちらの値も変動させることで、地震波速度を説明することができます。
 例えば、温度が高くても、密度が大きければ、その速度を説明することが可能です。つまり2つの変数を恣意的に調整可能であることになります。そうなるとその物質の由来は、いろいろな可能性がでてきます。
 その可能性として、月をつくった原始惑星のティアの残骸に由来するという考えがあります。2021年の月と惑星の関する学会(52nd Lunar and Planetary Science Conference 2021)で、ユアンと共同研究者が発表したもので、
Giant Impact Origin For The Large Low Shear Velocity Provinces
(大規模低速度領域のジャイアント・インパクト起源)
というものがありました。
 これは、原始惑星ティアの原始地球への衝突をシミュレーションをしたものでした。ティアが、鉄に富んだ密度の大きなマントルをもっていれば、衝突後、ティアのマントル物質は地球のマントル下部へ、コアの境界に達することになります。それらティアの破片は、マントルとコアの境界で、長い年月が経過すると、破片が集まってLLSVPとなるという可能性がシミュレーションにて示されました。
 このシミュレーションの難点は、ティアの破片でれあれば、地球内部に長い時間おかれるので、周りのマントル物質より低温ではないという点です。
 物質の温度と密度は、いずれも未知なので、値を変化させられる境界条件となります。ユアンらのシミュレーションでは、ティアのマントルの鉄に富んだという前提をおけば、密度は周りのマントル物質と比べると、1.5%から3.5%大きくなり、温度も高くてもいいということがわかりました。低温であれは「最近」落下した海洋プレートの破片を示唆していますが、密度を大きくすることで温度が高くてもよくなり、「創成期」のティアのマントル物質でも可能性があることになります。
 ここで注意が必要なことは、あくまでもシミュレーションは、可能性を示すもので、それが事実であったことが保証するものではない点です。もちろん、条件をいろいろ変えても、シミュレーションの結果が一致しなければ、その可能性は否定できます。シミュレーションでうまくいったので、正しいと思ってしまいそうになりますが、可能性のひとつと考えておく必要があるでしょうね。


Letter■ 出張・ガタのきた体 

・出張・
先週、校務出張で、道東へでかけてました。
その続きで、野外調査も大学の許可がでましたので
1週間ほどに出張にでました。
幸い最終日以外は、天気にめぐまれ、快適に調査できました。
調査地は観光地でもあったのですが、
人出は、少な目となっていました。
困ったのは、緊急事態宣言のため
多くの公の施設が時間短縮や、休館しているところも多くて
なかなか予定通り進められませんでした。
しかし、野外を歩くことが優先でしたので、
いろいろ見て回ることができました。

・ガタのきた体・
この1年半、野外に出ることがほんとんどなかったのと、
自粛で運動も通勤の行き帰りくらいしか
体を動かしていませんでした。
そのため、体力と筋力の衰えを痛感しました。
少し歩いただけで、足がガクガクしてきて
翌日にはふくらはぎや太ももが筋肉痛になっていました。
高齢でもあるので、あちこちガタがきた体と
折り合いをつけながら、調査するしかないようです。
無理せず、自身の体をいたわりながら、
野外調査に進めていく必要がありそうです。
体に合わせて、頭の切り替えが必要です。