地球の歴史
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Essay■ 1_182 チクシュルブの衝突 3:衝突説へ
Letter■ チョーク・日本のK-Pg境界
Words ■ 集中講義なので早めの配信です


(2020.08.20)
 K-Pg境界の事件が、隕石衝突説として決着するまで、多数の反論がでてきました。その多くは地質学者からのものでした。しかし、隕石衝突説を支持する証拠も、地質学者が提示しています。

Essay■ 1_182 チクシュルブの衝突 3:衝突説へ

 ルイスらは、K-Pg境界にある薄い層だけにイリジウムが濃集している、という測定結果から、推測を進めていきました。
 K-Pg境界の事件は、生物の大絶滅を起こしていますから、隕石衝突の影響は地球全体に広がっていたと考えられます。その前提から、イタリアのグッビオのK-Pg境界の地層の濃度から、イリジウムが全地球に分布するために必要なイリジュウムの全量が推定していきます。隕石のイリジウムの平均的な濃度から、全地球にイリジウムを衝突でばらまくには、どれくらいの量が必要か推定できます。その結果、直径10kmとなりました。
 K-Pg境界の地層が、グッビオ一箇所だけでは、説得力がありません。デンマークのスティーブン・クリント(Stevns Klint)海岸の崖にも、K-Pg境界の地層が分布していました。そこからも試料を入手して、放射化分析しました。すると、やはりイリジウムの濃集が見つかりました。その濃度を用いて隕石の大きさを推定したら、直径が約6kmとなりました。
 このような証拠と推定からの結論を、1980年に論文にして報告しました。その論文は、大きな反対にあいました。なぜなら、隕石衝突による大絶滅は、このシリーズの最初に書いた、激変説の再来だったからです。
 反対論者も、イリジウムの濃集という現象を説滅する必要があります。その由来を地球内の現象に求めました。候補として、その時代に活動した巨大な火山として、インドのデカン高原の火山噴火(デカン・トラップと呼ばれている)が上がりました。そこでもイリジウムの濃集は見つかっています。火山活動は、K-Pg境界の時代より100万年前から始まり、その後も100万年間続いています。地球全体で大絶滅を起こすには、十分な規模と期間でした。
 ところが、その火山活動中も、恐竜が生き延びていたこと(恐竜の卵化石の発見)が、後にわかってきました。ですから、かなり巨大の火山噴火でも生物種を絶滅させることは難しいことになります。また、デカン・トラップの火山では、他の元素(クロムやニッケル)の濃集もありました。ところが、他のK-Pg境界では、そのような元素の濃集はありませんでした。大絶滅の原因として火山説には、不都合な証拠が見つかってきました。
 隕石衝突説の論理は明快で、他地域でもK-Pg境界があれば、さまざまな検証作業ができます。激変説に賛同した人(あるいは反対した人も)は、隕石衝突のさまざまな証拠(反対論者は隕石ではない証拠)を探していきました。その結果、スス(大火災の証拠)、衝突石英(激しい衝撃を受けた石英に現れる構造)、巨大津波の堆積物(海での衝突で発生)など、いろいろと衝突の証拠が、世界中のK-Pg境界で見つかってきました。そしてとうとう、隕石の衝突現場も、メキシコのユカタン半島付近のチクシュルブであることが、突き止めされました。
 そして、2010年には、各分野の研究者40数名の共著論文が、アメリカの科学雑誌サイエンス誌に掲載され、隕石衝突がK-Pg境界の大絶滅を起こした、と結論づけられました。この論文をもって、K-Pg境界の大絶滅は隕石衝突で一応の決着をみたことになります。
 さて、いよいよ次回からは、衝突クレーター、チクシュルブの実態についての最新の話題へと入ってきましょう。


Letter■ チョーク・日本のK-Pg境界 

・チョーク・
デンマークのスティーブン・クリントは訪れたことがあります。
地元の人には、なんの変哲もない海岸なのでしょうが、
日本から来たものにとっては、興味深い海岸でした。
海岸の崖は、白亜からできていました。
白亜とは「チョーク」のことです。
もともとチョークは海のプラントンの遺骸の集積で
殻は炭酸カルシウムからできています。
この地には、駐車場がありましたが、
小さなレストランと小さな博物館があるだけでした。
一応、観光地だったようですが、
多分観光のメインは海水浴場のようでした。
とことが大きな石ころだらけで
日本の海水浴場の海岸とはかなり違っていました。

・日本のK-Pg境界・
日本でもK-Pg境界の地層が見つかっています。
北海道の十勝郡浦幌町の川流布(かわるっぷ)川の支流の
河岸の小さな露頭に、
5から10cmほどの薄い粘土層としてあります。
いったことはないのですので、
写真で見る限り、よくこの地で見つかったな
と思えるような小さい露頭です。
変形して曲がっているので、
衝突を想像させる露頭ではなさそうです。
よく、K-Pg境界だと判定できなと思います。