地球の歴史
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Essay■ 1_181 チクシュルブの衝突 2:イリジウム
Letter■ 前期の最後に・集中講義
Words ■ 今年は夏休みもお盆もありません


(2020.08.13)
 K-Pg境界の大絶滅は、隕石の衝突であることがわかってきました。そこには、物理学者の父と地質学者の息子がかかわっていました。両者の専門が組み合わさることで、はじめて謎が解明されました。

Essay■ 1_181 チクシュルブの衝突 2:イリジウム

 K-Pg境界(中生代と新生代の時代境界)で起こった大絶滅事件は、どのようにして提唱され、検証されたのか、概要をみていきましょう。
 大絶滅の原因解明には、アメリカの物理学者ルイス・アルバレス(Luis W. Alvarez)が、大きくかかわっています。ルイスは、素粒子の挙動を調べるために、水素泡箱と呼ばれる装置を利用して素粒子の研究をしたり、さまざま独創的な物理実験のための装置を開発しました。素粒子学への貢献によってノーベル物理学賞を受賞しています。
 このルイスが、恐竜絶滅とどういう関係があるのでしょうか。それは、放射化分析という装置と方法をルイスが使えたからです。原子炉や加速器などで、中性子や荷電粒子を試料に照射すると核反応によって、成分の元素(核種)が放射化(放射能を持つ状態になる)され、短い時間の放射線(ガンマー線)を放出して安定な元素(核種)に変わります。この時、ガンマー線のスペクトル解析をすると、その元素のガンマー線強度が測定できます。同時に放射化した濃度がわかっている試料(標準試料)と、強度を比較することで、濃度を測定することができます。この方法は、微量は成分の検出に非常に適しています。
 ではなぜ、K-Pg境界に適用しようとしたのでしょうか。それは、ルイスの息子のウォルター(Walter Alvarez)が地質学者であったことと関係しています。ウォルターは、イタリアの昔の地中海で堆積した地層で、古地磁気学の研究をしていました。磁気の反転の繰り返しから、古地磁気から年代を推定する方法を確立したことで、過去1億年間の年代の同定が可能になりました。調査地のイタリアのグッビオに、K-Pg境界の地層が連続して分布していまました。
 グッビオの境界をまたいで、ウォルターが連続的に試料を採取しました。その試料をルイスが放射化分析をしました。親子の関係だけでなく、両者の専門とする地質学と物理学(放射線分析学)が、この時結びつきました。
 分析の結果、K-Pg境界の薄い粘土層からだけ、イリジウム(Ir)という元素が、他の地層の20倍から160倍の高濃度になっていました。イリジウムは、白金(Pt)グループに属する元素で、地表の岩石にはほとんど含まれない元素です。
 地表で見つかったとしても、地下深部で形成された深成岩か特異な火山岩にしか見つからない成分です。グッビオの地層は、石灰岩なので堆積岩です。イリジウムの濃集は、堆積作用では考えられません。そのため、グッビオのイリジウムの由来は、隕石だと考えられました。
 そこから、ルイスの想像力が広がります。その内容は、次回としましょう。


Letter■ 前期の最後に・集中講義 

・前期の最後に・
今週でわが大学は、遠隔授業が終わります。
日程的に定期試験ができませんので、
定期試験以外での評価法で
成績を判断していくことになります。
ゼミや少人数の講義では、
名前と顔が一致しているので
受講態度なども把握できます。
大人数の講義での評価は、悩ましいところです。
でも、していくしかありません。

・集中講義・
前期の講義が終わったらすぐに、
夏の集中講義がはじまります。
これも遠隔授業となります。
リモートでのライブ講義もできますで、
先週からその構成を考えているのですが、
どうすればいいのか、まだ悩んでいます。
以前は前期におこなっていた講義なのですが、
新しい講義が入ってきたので、
この講義を集中講義として
再構成しておこなう予定で組み替えていました。
そこに遠隔授業となりました。
再度、講義の組み換えとなります。
短い準備期間で、多大な労力を使わなくてはなりません。
かなり辛い作業となります。