地球の歴史
表紙に戻る

Essay■ 1_139 地球の水の起源 5:水のブレンド
Letter■ 偶然・新情報
Words ■ 今年の北海道は根雪が早いようです


(2014.12.18)
 最新のガス捕獲説ですが、これを受け入れたとしても、脱ガス説もレイトベニア説の選択は残るります。なぜなら、ガス捕獲説は、太陽系の誕生する前の分子雲時代の話だからです。

Essay■ 1_139 地球の水の起源 5:水のブレンド

 ガス捕獲説は、アメリカのウッズホール海洋研究所のサラフィン(A. R. Sarafian)たちが、9月26日のScience誌に発表したもので、コンピュータでH2Oに関するシミュレーションをおこなった結果でした。シミュレーションの前提として、原始太陽系円盤内のみでH2Oが作られるものとしてなされました。すると、太陽系にみられる水に特有の性質(重水素の比率D/Hと表記される)が、シミュレーションでは再現できないことがわかってきました。つまり、前提条件が違うということになります。
 シミュレーションによれば、低温で形成されたH2O(D/Hが大きい)を、かなりの量を取り込んでいなければ、太陽系の値にはならないという結果だったのです。現在の太陽系にみられるH2Oのうち、30%から50%が太陽系が形成される前、分子雲の時(低温)に形成されていなければならない、と推定されました。
 これは、H2Oの起源に関する重要な仮説になります。ただし、今までの他の2つの説に先行した時期なので、このシミュレーショを受け入れたとしても、なおかつ脱ガス説かレイトベニア説かという問題は残ります。なかなか複雑な状況になってきました。
 太陽系、あるいは惑星の形成時に、H2Oがすでにできていたとすると、地球の水には、原始太陽系円盤で合成された分子雲のH2Oと、太陽系ができたときの太陽系オリジナルのH2Oがあることになります。2つのH2Oが混合しているというのです。太陽系のH2Oは、ブレンドされているのです。地球軌道ブレンドのH2Oがあったかもしれません。そうなるとH2Oの成分にも、場所によって、いろいろなブレンドがあったかもしないのです。
 脱ガス説であれば、原始地球として成長した後、材料物質の平均的にブレンドの海ができていたでしょう。レイトベニア説ならは、カイパーベルト由来の彗星が、たった一度の衝突によってできた個性的なブレンドのH2Oがもたらされたかもしれません。それぞれのブレンドには、分子雲起源のH2Oを3から5割ほど含まれていたことになります。
 脱ガス説であれば、地球の水の起源や成分には必然性が生じます。ところが、ガス捕獲説やレイトベニア説を採用すると、地球の水は、その組成も起源も、たまたま、偶然の要素がかなりの比率を占めることになります。さてさて、「神はサイコロ遊び」をするのでしょうか。


Letter■ 偶然・新情報 

・偶然・
「神はサイコロを振らない」という言葉は
アインシュタインが、量子力学を批判したとき用いた言葉です。
素粒子などの振る舞いを、確率でしか記述できない
量子力学を皮肉ったものです。
私もその言を引いてエッセイの結びとしました。
自然現象には、確率や偶然による部分があるのは確かです。
しかし、心情的には、アインシュタインのように
地球の水にも何故あるのかという理由に
必然性があったほうが
スッキリするのですが・・・

・新情報・
実は、このエッセイを書いていたら、
別の報告の情報が入ってきました。
レイトベニア説ですが、水の起源が
これまで述べてきた彗星ではなく、
小惑星起源を示唆するという論文でした。
彗星探査機ロゼッタの観測チームが
12月10日に発表したものでした。
最新ですが、この説の説明をしはじめると
さらに話が複雑になりそうなので、
このシリーズは今回で終わりとします。
新たな展開があれば、紹介することにします。