地球の歴史
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Essay■ 1_137 地球の水の起源 3:レイトベニア説
Letter■ 師走・彗星の巣
Words ■ 今年も残り少なくなってきました。後ひと頑張りしましょう。


(2014.12.04)
 レイトベニア説は、一度唱えられたたのです。否定する観測値があったため、否定されました。しかし、別の観測結果から復活してきました。この復活によって、新たな謎を生むことになりました。

Essay■ 1_137 地球の水の起源 3:レイトベニア説

 地球の水の起源として、脱ガス説、レイトベニア説、ガス捕獲説の3つがありました。少し前までは、材料物質のコンドライトに含まれていた揮発成分の脱ガスでできたと考えられていました。
 前回も少し紹介したのですが、水蒸気が隕石に取り込まれにくい難点がありました。太陽系創成期から40億年前まで、水があった場所は太陽系ずっと外側の低温域だけで、地球を形成するような位置には水は存在できなかったという指摘がありました。他にも、惑星の形成時期は表面が非常に熱く、表面に液体の水は存在できず、激しい衝突でガスは宇宙空間に飛び散ってしまう可能性があることも難点でした。
 脱ガス説を支持するために、回避する説明も可能でしたが、その説を強く示す証拠はあまりありませんでした。
 その後、レイトベニア説が有力になりました。考え方は隕石の脱ガス説に似ていますが、衝突の時期が問題で、脱ガス説が地球形成期にあるのに対し、レイトベニア説は原始地球の誕生後の出来事です。
 レイトベニア説は、一度の衝突で海水の量程度は供給できるという利点がありました。現在、地球に存在している海水の量は、重さでみると0.027%にすぎません。この程度の量の水は、微惑星に含まれているH2Oをほんの少し(1/40程度)脱ガスすれば供給できるほどでした。
 レイトベニア説は2011年に、水に含まれる重水素(水素の同位体で質量数が1のHより重い2のもの、D)の比率(D/H比と呼ばれます)の値が調べられて、注目を集めました。ESA(欧州宇宙機関)のハーシェル(Herschel)宇宙望遠鏡で、地球を近くを通過した彗星(ハートレー第2彗星、Hartley 2)の氷を観測し、重水素の比率を測定しました。すると、その値は、地球の水と同じことがわかりました。
 1980年代に、レイトベニア説は、脱ガス説の同時期に提唱されていました。当時も、いくつかの彗星のD/H比が測定されましたが、その値は地球上の水とは大きく違っていることがわかりました。そのため、この説は、支持を失いました。
 天体に存在する水は、ある定まったD/H比を持っていて、その比率は変わらないことが知られています。地球の水のD/H比が、彗星と同じ値であったということは、水の起源がある種の彗星であったという重要な根拠が提示されたことになります。
 ハートレー第2彗星は、カイパーベルト(冥王星から遠く離れた黄道面に小天体が多数存在するゾーン)に起源を持つものでした。一方、異なるD/H比をもつ彗星は、オールトの雲(カイパーベルトより外で太陽系を球状に覆うように存在する小天体のゾーン)に起源を持つものでした。
 太陽系誕生当時は今よりも多数の彗星が巡ってきたはずです。衝突の可能性は今よりずっと大きかったはずです。地球に水をもたらした衝突は、地球誕生後、約800万年に起こったという推定もあります。
 新たな観測データを根拠にして、レイトベニア説が復活しました。この説の有利な点は、一度の衝突で水の起源が説明が可能であるこということです。でも、根拠をもった仮説であって、決定的な説ではありません。
 もし、カイパーベルトとオールトの雲に属する彗星で、化学的性質が違っているのか、それともカイパーベルトの彗星自体に化学的多様性があるのか、これは重要な問題提起になります。いずれにしても、太陽系形成にかんする重要な束縛条件を提示したことになります。今後、さらなるデータや研究が必要になりました。


Letter■ 師走・彗星の巣 

・師走・
いよいよ12月、師走になりました。
私は、10月からバタバタしています。
学生の論文の添削にかかりきりです。
ですから、10月から師走状態です。
これも教育で一貫で、
学生たちが成長するために必要だと思っているので
やり続けています。
学生たちは大変な思いをしているのでしょう。
このような大変な経験は
将来、きっと役に立つからと、励ましています。

・彗星の巣・
彗星の巣のようなものがあるのが、
彗星の軌道の決定からわかってきました。
ひとつは、惑星と同じ軌道面を巡っている
カイパーベルトと呼ばれるものです。
実際のそこを巡る天体がいくつも見つかっています。
もうひとつは、もっと外側にあり
太陽系全体を覆うようして広がっている
オールトの雲と呼ばれるものです。
二つの彗星の巣で、
彗星の性質に違いがあったということになると
なぜという疑問が湧いてきます。
それは太陽系形成の謎とも直結していくはずです。